大学生と経営者の挑戦がつながる、新たなインターンシップを目指して
働くことに不安を抱く大学生と新たな挑戦を続ける企業をつなぐ長期実践型インターンシップ。双方の想いは新たな仕事や価値を創出。経験を自信へと変え、大学生に働く楽しさを感じて欲しいー。その想いを伺いました。
特定非営利活動法人北海道エンブリッジ
代表理事 浜中裕之(はまなかひろゆき)さん
2006年、大学2年の時に広告会社のインターンシップ(※1)に参加し、働くことの楽しさを実感。広告営業からインターンシップのコーディネートを経験し、2008年に任意団体ピオネイロを設立。2012年特定非営利活動法人北海道エンブリッジとして法人化、代表理事を務める。
(※1)学生に就業体験の機会を提供する制度のこと
インターンシップでの経験を通じて、地域で若者を育てていきたい
―特定非営利活動法人北海道エンブリッジを設立したきっかけを教えてください。
大学に入った当初は社会科教師を目指していましたが「社会をあまり知らないまま卒業し、学校の先生になっていいのか」と不安を感じていたため、大学2年の時にゼミの先生の紹介で、広告会社のインターンシップに参加しました。その中で、広告営業として約30社のクライアントを抱えるなど、たくさんの経営者と出会う中で働く面白さを知り、「大学生がこのような経験を当たり前にできる環境がもっと整えば」と感じるようになりました。大学3年の時に同社のインターンシップのコーディネート事業にも参加し、面白いと感じる会社や経営者をひたすら探しては大学生とつなぐという日々を送りましたが、やがてインターン先の会社がコーディネート事業から手を引くことになり、独立を決意しました。2008年に任意団体ピオネイロを設立し、2012年に特定非営利活動法人北海道エンブリッジとして法人化しました。
―活動内容について教えてください。
主な活動内容は大きく分けて三つあります。一つ目は長期実践型インターンシップ(※2)です。札幌や北海道内でさまざまな分野に挑戦する企業と大学生のコーディネートを行っています。
二つ目は大学連携プロジェクトです。札幌近郊の大学と連携し、地域協働フィールドワーク(※3)や海外研修などインターンシップのプログラムやカリキュラムの開発を行っています。
三つ目は北海道エンブリッジのインターンシップとして活動する研修プログラムです。インターン先の企業探しや、インターンシッププログラムを企業にご提案するなどの活動を通じて、大学や企業、行政など社会人との接点を増やすことで、自分の適性や興味のある分野などを見定めることが可能です。
その他、さまざまな大学での講演活動をはじめ、企業名や業界などにとらわれることなく、その企業で展開されているインターンシップのプロジェクトや経営者などへの興味からマッチングを行う「インターンシップフェア」、面白い取り組みを行っている会社の経営者をゲストに招く大学生対象の「シゴトを考えるワークショップ」、実際にインターンシップに関わる企業や行政、大学、学生の交流機会として成果報告会などを行うなど、インターンシップを通じ、地域の人たちを巻き込みながら若者を育てる取り組みを目指しています。
(※2)長期実践型インターンシップとは、6ヵ月以上の長期プログラムを行い企業に入り、社会人としての基礎を学びます。
(※3)地域協働フィールドワークとは、北海学園大学の授業で、羽幌町にある天売島にて3ヵ月の事前調査と、2週間の現地インターンシップを実施。島の仕事を手伝いながら自給自足し、歴史の編纂(へんさん)や空き店舗の改修など、島の役に立つプロジェクトを企画し実施していること
インターンシップでつなぐ「企業の挑戦」と「大学生の仕事への意識」
―大学生とインターンシップをつなぐ活動について教えてください。
主に、6ヵ月以上の長期実践型インターンシップのコーディネートを行っています。一次産業から三次産業までさまざまな経営者とお会いし、5~10年後のビジョンを伺いながら大学生が参加可能なポジションを提案し、プロジェクトに興味を持つ大学生たちを募るマッチングの他、インターンシップ期間中は大学生と企業の間に入り、双方へのサポートを行っています。北海道ではまだまだ「見学型」とよばれる短期インターンシップが主流ですが、長期間のインターンシップでは大学生がより実践的な経験やスキルを積むことができ、中小企業の経営革新や課題解決に取り組むなど、双方の可能性が広がると考えており、中にはWEBショップの店長を担当したり、新たなエリアへの展開を任せられる大学生もいます。「企業も挑戦する姿を大学生たちに見せて欲しい」という想いから、既存の業務を学ぶのではなく、企業にとっても新たに挑戦する事業や分野でのインターンシップの受け入れをお願いしています。そのため「何の企業なのか」ということより「経営者が何を目指しているか」を重視しています。例えば、経営者の考えに興味を持ち、広告業志望の大学生が農業のインターンシップに行くことで、結果的に良い経験を得られることもあります。農業にも広報やマーケティングは必要ですし、必ずしも専門の企業である必要はないと考えています。「この経営者と何かやってみたい!」という気持ちが何より重要となり、大学生がインターンシップのプログラムを決める際は「就活につながりそう」というより「楽しそう」という動機が強いようです。北海道エンブリッジとしても、より大学生が魅力を感じるようなプログラムの提案を心掛けています。「やらなきゃいけないからやる」ではなく、働くことの楽しさを感じてもらいたいですね。
―インターンシップがもたらす効果とは?
私自身、過去のインターンシップでは初めてのことばかりで苦労の連続でした。営業といっても右も左も解らず、契約書を結んだこともありません。しかし、その時の受け入れ企業の社長から「苦労していなければインターンの意味はない。できることはやるな、できないことをやれ」とずっと言われていました。できることが増えていく楽しさや、経験が力になると実感することができたインターンシップは、自分にとって非常に貴重な機会になったと考えています。同様に、最初は社会に出て働くことに不安を感じていた大学生たちが、インターンシップの経験を重ねることで自信をつけ「仕事って面白い」と感じるようになります。また、最初は半信半疑で大学生を受け入れていた企業も「もっと学生に任せてみよう」と考えるようになります。こうして企業や地域などが大学生を当たり前のように受け入れていくような土壌ができると、これから社会人を目指す大学生が計画的に経験やスキルを習得する場所が増え、それによって「人を育むコミュニティー」を形成することにつながります。「自分に仕事を任せてもらえる」ということは、大学生たちにとって大きな魅力です。インターンシップの受け入れ企業が増えることで、例えば「東京に行くと5~10年かかることでも、札幌では1年目で挑戦できる」と考えるきっかけや大学生が北海道に残る理由にもなり、全国でも北海道で働いてみようと考える大学生が増えるのではと考えています。
(写真左)ベトナムの観光データベースのまとめや現地調査、物件調達を行い、海外でゲストハウスの立ち上げプロジェクトに参画した大学生の報告会。(写真右)泊村の海の家を拠点としたコミュニティーづくりに参画、現地農家や酪農家と共に「ゆきいもアイス」企画・開発した大学生。10年後の北海道で、若者が新たな価値をつくり活躍できる取り組みを
―今後の目標や課題は何ですか?
これまでは長期実践型インターンシップを地域に増やす取り組みを行ってきましたが、今後は「意図を持ったプログラムづくり」を行うことが目標です。今から10年後の北海道を見越し、どのような仕事があれば若者が関わり活躍していけるのかというビジョンをきちんと描くことを重視し、受け入れ企業と協力しながら人材の育成に取り組んでいきます。また、森林や海洋資源を守りながら、新たな価値づくりに挑戦していきたいです。林業や農業、漁業、福祉、観光、IT など様々な分野が網羅され、大人数ではなくてもその分野に進みたいと考える大学生がしっかりと育つ環境を作りたいですね。現在は大学生が職業を選ぶ際に「就活しよう」という意識がありますが、例えば「海で何かやりたい」「林業を自分で形にしてみたい」などの選択ができるようにしていきたいと考えています。そして、そのような取り組みを北海道という地域全体で行えるようなプログラムづくりを目指しています。その他、起業家の教育プログラムとして、創業支援やビジネスコンテストの実施などにも力を入れていきたいです。
特定非営利活動法人北海道エンブリッジ (団体ページへ)
■ 住所 | 札幌市北区北11条西2丁目1-6 みどり荘201号室 |
■ 電話 | 011-790-6987 |
■ FAX | 011-613-0936 |
■ メール | info@en-bridge.org |
■ ホームページ | http://en-bridge.org |
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■ Twitter ID | @Npo_enbridge |
今後の開催予定
6月23日(土)にインターンシップフェア「SUMMER JOB FESTA」を開催予定。その他、各種プロジェクトでインターンシップを募集中。詳細は団体ホームページ、各種SNSへ。問い合わせ、申し込みはホームページのフォーム、またはメール、電話で受け付け。
取材を終えて
インターンシップで大学生は初めて仕事に挑みますが、北海道エンブリッジのインターンシップ受け入れ企業では経営者をはじめ大人たちが楽しみながら新規分野に挑んでいます。 双方の挑戦が生み出す価値は新たな社会形成へとつながります。また、大学生が離島に滞在し、島民の仕事を手伝い自給自足の生活をしながら島の歴史の編さんや空き店舗の改修に取り組むという地域協働フィールドワークに「傍 (はた)を楽にする」という「働く」原点を感じました。
※2018年3月7日現在の情報です。