自然と触れ合いながら「農業」を子どもたちに実感してもらいたい
公園に遊びに来るような気軽さで、子どもたちが自由に自然と触れ合える場所作りを目指してー。「野菜を作り、売り、営む」という「農業」を子どもたちに体感してもらうことで伝える取り組み。その想いを伺いました。
特定非営利活動法人あぐりぱる
代表理事 東海林幸恵(とうかいりんさちえ)さん
農業生産法人株式会社ふるさとファーム代表取締役。標茶町出身。酪農業を営む家に生まれ、酪農学園大学卒業後に農作業の指導員などを経験。2011年からふるさとファームの農場長を経て現在は代表取締役に、2012年に特定非営利活動法人あぐりぱるを設立、代表理事を務める。
公園のように気軽に子どもが遊びに来られる畑を目指して
―特定非営利活動法人あぐりぱるを設立したきっかけを教えてください。
実家が祖父母から続く酪農業を営んでいたため、農業という存在は自分にとってとても身近なものでした。幼少期から祖父母と一緒に暮らし、自然との触れ合いを通して食べ物の大切さや命を感覚的に知る環境にありましたが、札幌にはお年寄りと接する機会や子どもたちが自由に自然の中で過ごせる場所はなかなか無いと感じていました。そのため「子どもたちが公園に来るような感覚で遊びに来られる畑を作りたい」と考えたのです。2011年に生産者として野菜作りをするために農業生産法人株式会社ふるさとファームが設立された時には農場長として関わっていたのですが、私個人として、子どもたちが農業体験を通じて自然と触れ合うことで「農業を知る機会を提供したい」という想いがありました。そこで、大学在学中に高校生を対象とした農業体験企画や運営に携わるなど自主活動を行っていた経験を活かし、2012年に特定非営利法人あぐりぱるを立ち上げました。また、ふるさとファームに限らず近隣の畑を含めた総称として、この地区を「野菜のなる公園」としています。公園にブランコがあるように、通年どこかで野菜が実り、その成長を自由に観察したり触れ合ったりすることができる場所を目指しました。設立から6年目を迎えた今は、農業体験の時以外にも遊びに来たいと言ってくれるお子さんもいて、「子どもたちが気軽に立ち寄れる畑」という最初の構想が少しずつ実現しつつあります。高齢化が進む地区ということもあり、「子どもたちが遊ぶ声がにぎやかで、まるで里山みたい」と町内の方が懐かしみ、声をかけてくれることもあります。最近では田んぼが見られなくなっていた石山地域に再びカエルの鳴き声が響き渡り、親ガモが子ガモを連れて泳いだりする様子も見られるようになりました。
―現在の活動内容を教えてください。
小学生を対象とした農業体験「ぱるきっず」を行っています。あぐりぱるの「ぱる」は英語で「仲間」という意味で、そこから「ぱるきっず」と名付けました。養護施設の子どもたち10人と一般募集した札幌市内の小学生10人の2グループで5月~11月にそれぞれ月一回、10時頃から13時頃まで活動しています。春は種まきや田植えから始め、草取りやお世話をしながら野菜とお米を育て、お昼ご飯には必ずその時に畑で収穫したものを食べるようにしています。野菜の少ない春先には前年に採れたトマトをペーストにしてハヤシライスやミートソースを作ったり、夏はピザ釜で新鮮野菜のピザを焼き、そして、秋には育ててきたお米、ニンジン、ジャガイモ、タマネギを使用したカレーライスを作ることが目標です。子どもたちは基本的に自由に自然と触れ合うことができ、初めて参加する子の中には田んぼに入ることや畑での土いじりに抵抗があったりする子もいますが、回を重ねるうちに徐々に慣れ、それぞれ楽しんで過ごすようになります。
(写真左)田植え作業から草取り、収穫までを行い、秋にカレーライスを食べることが目標。(写真右)季節の野菜をのせたピザは最高のごちそう。現在は、ふるさとファームのスタッフ3人とボランティアを含め毎回約10人で子どもたちをサポートしており、以前は参加者として遊びに来ていた子が小学校を卒業し、今では手伝いにきてくれたりもしています。ボランティアとして協力してくれるお年寄りは南区内に住む方々がほとんどですが、その他にも活動を理解し手伝ってくれたり、知り合いの方やお孫さんを連れて来てくれるなどつながりが広がり、多くの方々に支えられていることを感じています。今でこそ畑や田んぼがありますが、もともとこの土地は使われていない牧草地でした。畑も田んぼも野菜づくりも自分たちで全てを一から作る必要があり、全て手探り状態でしたが、近隣の皆さんにはたくさん助けていただきました。特に、お隣の農家である町内会長さんには当初から道具を貸して頂いたり、現在も「ぱるきっず」の活動に協力を頂くなどお世話になっています。
自然を通じて、農業や食べ物の大切さを体感してほしい
―農業体験の魅力は何ですか?
子どもたちにとって非日常の体験ができるところですね。自然に住む生き物を探して捕まえたり、田植えや草取りなど農作物のお世話や収穫、それら全てが今は失われつつある自然とのつながりです。子どもたちにとっても、学校のようにカリキュラムが細かく決められているような時間を過ごすのではなく、自然が溢れる広い場所で自由に過ごせるというのは魅力なのだと思います。参加者も南区だけに限らず、東区や西区など札幌市内から来ています。ホームページを見て興味を持ったという方も多く、昨年は参加者が定員の2倍となり、保護者の食育や農業体験に対する関心が高いことに驚きました。今は農業体験の機会も決して多くはなく、札幌市外での実施だったり、田植えや稲刈りの作業はあっても草取りまで行い、成長を見届けるなど農作物と向き合うところは少ないのではないでしょうか。農業体験の受け入れ活動をする農家が増えていくことで、子どもたちにもっと機会を提供できればいいと感じています。
(写真左)稲刈り作業。作り、育て、収穫する経験によって、食べ物の大切さを実感。(写真右)自分たちが育てた野菜を自分たちの手で売り、農業を実感する販売体験。
今年は初めて、子どもたちが作った野菜を自分たちで販売するというイベントを開催しました。これまでは「種を蒔き、育て、食べる」という農業体験でしたが、今回は実際に自分たちが作った野菜を誰かに買ってもらう喜びを味わい、売るための工夫をするなどもう一歩踏み込んだ内容にしたことで、子どもたちが農業をより実感する機会となりました。
また、農業体験はこちらが一方的に与えるものではなく、子どもたちと関わり相談しながら一緒に取り組むようにしています。子どもたちが自然や農作物に触れ合う様子に大人の方が元気をもらい、自分たちももっと頑張ろうという励みにもなるのです。
自然と触れ合い、農業を身近に感じられる場所づくり
―今後の目標は何ですか?
「野菜を作り、売り、営む」という「農業という職業」を子どもたちにもっと知ってもらいたいですね。私たちの親世代は「農業は当然継ぐものだ」と捉え、わざわざ伝えるために形にしてこなかったのではないでしょうか。「農業を伝えるという活動」は、自分が農業を営む以上の務めだと考えています。子どもたちが活動を通じて農業に興味を持つことで、まずは、食べ物の大切さを感じてもらいたいです。また、月一回の「ぱるきっず」の開催時だけでなく、自然と触れ合い、農業をより身近に感じることができるよう、今後子どもたちを広く受け入れていきたいと考えています。
特定非営利活動法人あぐりぱる (団体ページへ)
■ 住所 | 札幌市南区石山637番地6 |
■ 電話 | 011-215-1985 |
■ FAX | 011-215-1986 |
■ メール | info@agripal.jp |
■ ホームページ | http://www.agripal.jp |
今後の開催予定
一年を通して野菜作りやお世話をする「ぱるきっず」を毎年春に10人ほど募集している。活動は5月~11月で、12月からは雪遊びやジャム作りなどを企画中。詳細は団体ホームページへ。問い合わせはメール、または電話で受け付け。
取材を終えて
「子どもたちに自然を肌で感じてもらうことで、農業を伝えていくことが使命」という言葉に感銘を受けました。近頃はスーパーに行けば、さまざまな産地の野菜が常に並んでいます。しかし、本来それは当たり前のことではありません。収穫には時期があり、そこに至るまでの喜びや苦労、人々との関わり、その全てがつながっています。子どもたちが実際に体験し感じ取ることで、食べ物の大切さを学ぶ素晴らしい取り組みだと感じました。
※2017年11月27日現在の情報です。