特定非営利活動法人「飛んでけ!車いす」の会 吉田三千代さんにお話を伺いました。
特定非営利活動法人「飛んでけ!車いす」の会
理事兼事務局長 吉田三千代(よしだみちよ)さん
1998年、前代表である柳生一自氏とともに会を設立。現在まで、理事兼事務局長として、様々な理由で乗られなくなった車いすを整備し、海外旅行者に手荷物として運んでもらい、発展途上国の障がい児・障がい者など車いすを必要とする人の元へ届ける活動を継続。
10年目を迎えた2008年には『手から手へ。飛んでけ!車いす 1600台の笑顔』を出版。
2011年からはインドネシア、フィリピン、タイの3カ国の障がい児・障がい者や高齢者への支援を行うネイバーズの代表としても活動。
車いすがあればスラムから街に出る機会も作れると思いました。
―整備した車いすを旅行者に託し、旅の途中で届けてもらう「飛んでけ!車いす」の会の活動ですが、始められたきっかけを教えてください。
会を設立する前年(1997年)なのですが、娘がたまたまネパールに留学していて、その時に最貧国の一つと言われている隣国のバングラデシュのスラムへ、障がい者や障がい児に会いに行きました。「最貧国の」しかも「障がい者の」と、暗いイメージを持って行ったのですが、実際はとても皆明るい印象でした。そのスラムで「困ったことはないですか?」と聞きましたが「困ったことは何もない」というようなお答えがあり、びっくりしました。でも、スラムから街に出たりお祭りに行ったり、そういうことは全然したことがないと聞いていたので、車いすがあれば行けるようになるかもしれないと思いました。
そして、日本に帰ってから、友人を通して北海道大学医学部の学生だった柳生さんという方と出会って、彼から「車いすを、自分の所属している会から海外に、1台ずつ手荷物で持っていった体験がある」ということを聞いて、海外旅行に行く人が(旅のついでに)ボランティアとして手荷物で車いすを届けるアイデアがとても良いなと思ったことがきっかけです。
―現在の代表である佐藤さんも設立当初から関わっていたのですか?
そうですね。実は最初に柳生さんと私をつないでくれた友人というのが佐藤正尋代表でした。彼は重度の障がいを持っていますが、とても前向きに生活している方で、その当時は色々ボランティアを頼んで一人暮らしをしていました。柳生さんはそのボランティアとして、私は一人の友人として、彼の家に行っていたという関係がありました。
車いすを届けた国が、何か特別な国になるようです。
インドネシア・バリクパパンの特別支援学校へ5台の車いすが届けられました。手から手へ、旅行者が直接届ける「顔が見える交流」は続きます。―吉田さんご自身も旅行者として、数々の国に車いすを届けてこられたかと思いますが、特に印象に残っているエピソードを教えてください。
3年位前、フィリピンのセブ島というところに車いすを持っていった時のことなのですが、その子は最重度(障がい)の女の子でした。うまく話せなくて声もあまり出ない子なのだけれど、車いすに乗った途端に本当に嬉しい顔、笑顔のプレゼントをくれて、そして車いすが体にぴたっと合ったんです。お母さんも喜んでくださったし、その子もとても喜んでいることがその笑顔から伝わってきて、とても印象的でした。
―届けるだけでなく、受け取るものもとても大きいですね。
そうですね。もちろん笑顔だけで十分なのですが、海外に車いすを届けた旅行者にとってもやはり現地の方と色々話すチャンスがあるので、車いすを持っていった国は何か特別な国になるようです。またその国に行きたいと思ってくださったり、そこで何か地震や災害があったら「大丈夫だろうか」というお問い合わせの電話がかかってくることもあります。直接車いすを届けていただく交流なので、私たちは「顔が見える交流」と呼んでいます。
「車いすを持って」海外旅行をする人を増やしたいです。
届いた車いすは障がい児・障がい者の足になるものです。届ける相手のことを想って、整備チームのボランティアスタッフが一台一台丁寧に作業します。―車いすを「届ける」ボランティアがいる一方で、「託す」ボランティアもいますね。まず、車いすを整備する活動について教えてください。
車いすを整備するボランティアは、相手の(体の)サイズや病気の名前、手が使えるかどうか、何キロくらい持てるのかといった情報を元に総合的な判断をしたうえで、届ける車いすを決めています。
活動を始めたばかりの頃は、整備といってもパンクを直したり、簡単なことしかできなかったのですが、段々ノウハウが蓄積されて、今は「整備の技術者」と言えるところまできています。なので、整備の技術が高いというのは「飛んでけ車いすの会」の一つの誇りですね。
―次に、海外に車いすを届けるための連絡や調整をする「コーディネーター」の活動について教えてください。
旅行者から「ここに行くので車いすを届けたい」という情報をメールで受け取ります。そして、例えばインドネシアでしたら「インドネシアにはこういう団体がある」ということを考えて、その団体に「車いすを届けたいのだけれども、今ニーズはありますか?」ということを聞きます。ニーズがあれば、その団体から車いすを渡す方の必要な情報や写真を送っていただき、旅行者に「ニーズがあったので持っていっていただけますか?」という連絡をするといった、とても重要な役割があります。現在、コーディネーターとして活動しているのは2名です。海外とのやり取りをするので少し英語を書くことがありますが、興味のある方は気軽に相談してもらえると嬉しいです。
―最後に、今後の課題を教えてください。
海外に旅行する方自体はもちろん増えていると思いますが、「車いすを持って」ということになると、この頃LCCで(海外に)行かれる方が多いので預け入れ手荷物で別にお金がかかってしまうという問題があります。車いすを持っていくために追加でいくらかお金を払うという考え方は腑に落ちないし、さらに今は大きさ制限もあるので、少し持って行きづらくなっているように思います。
ただ、海外に行きやすい風潮はあると思うので、そういった気持ちと車いすを届けることをどうすれば縮められるかなということがこれからの課題になってくると思います。
特定非営利活動法人「飛んでけ!車いす」の会 (団体ページへ)
海外の障がい者・障がい児の自立を目的として、発展途上国へ車いすを届ける活動を行っています。「車いすを整備して託す」「旅行者として車いすを届ける」二つのボランティアがいます。さらに、車いすを通じて生まれた海外との交流や体験を伝えていくことで、ボランティアの裾野を広げていく活動にも取り組んでいます。
【これまでに飛んだ(届けられた)車いす】
計2619台(78カ国)※2016年9月末 現在
■ 住所 | 札幌市中央区北2条西28丁目2-8(地下鉄東西線「西28 丁目駅」3番出口から徒歩3 分) |
■ 電話 | 011-215-8824 |
■ 時間 | 月~木曜(平日) 14:00~17:00 |
※来所予定の方は事前に要電話。 |
◎お問い合わせ
tondeke@bz01.plala.or.jp
※2017年1月13日現在の情報です。