ミツバチが人と人をつなぐ、新たなコミュニティーの形
蜜を集めるようにミツバチが人も集めるー。カラス対策からたどり着いた「都市型養蜂」で新たなコミュニティーを形成し、ミツバチが年齢問わずさまざまな人々をつなぐ魅力的なまちづくりを実現したい―。その想いを伺いました。
特定非営利活動法人サッポロ・ミツバチ・プロジェクト
理事長 酒井秀治(さかいしゅうじ)さん
株式会社ノーザンクロス勤務。まちづくり事業の計画中に都市型養蜂として2006年に始まった「銀座ミツバチプロジェクト」を知り、2010年に実行委員会を発足。2012年に特定非営利活動法人サッポロ・ミツバチ・プロジェクトを設立、事務局長を経て、2014年に理事長に就任。
都市部でミツバチを飼う、市民参加型のまちづくり
―サッポロ・ミツバチ・プロジェクトを設立したきっかけを教えてください。
2009年、北海道庁赤レンガ庁舎前のイチョウ並木やその周辺を整備し、市民の憩いの場をつくるという計画を進めるにあたり、カラス対策が課題となっていました。色々と調べるうちに「黒いものを攻撃する習性を持つミツバチが有効」というコラムに出会い、銀座で2006年に始まった「銀座ミツバチプロジェクト(銀ぱち)」という都市型養蜂を知りました。代表の田中淳夫さんに相談したところ「札幌は花も多く、蜜もたくさん採れるはず。カラス対策だけではなく、まちづくりとしてミツバチを飼うことを楽しんでみては?」とアドバイスされたことがきっかけで「札幌の都市部で採れた蜂蜜を味わい、市民が楽しむという新たなまちづくり活動ができたら面白い」と考えるようになったのです。興味を持ってくれるメンバーに恵まれたことや、助成金に応募し、2010年の助成対象に選ばれたことから「サッポロ・ミツバチ・プロジェクト(さっぱち)」立ち上げに向け、準備を開始しました。そして、2010年5月に銀ぱちの田中さんを札幌に招いて市民講演会を開催し、実行委員会を発足する運びとなりました。しかし、養蜂については誰も知識がなく、始めは何もかも全くの手探り状態でした。札幌近郊の養蜂家にも相談しましたが、活動に賛同を得られるも忙しいと断られており、誰から養蜂に関するアドバイスを受けるかだけが決まらずにいたのです。そんな時、さっぱちが新聞記事で取り上げられ、転機が訪れました。さっぱちのみんなから「お父さん」と慕われ、養蜂の師匠として活動を支えてくれた城島常雄さんとの奇跡的な出会いです。城島さんは佐賀で60年携わった養蜂を辞め、娘さんの住む北海道へと移り住み、新聞でさっぱちを知ったそうです。「ハチのことが忘れられない、力になれたら」という想いから、活動に協力してくれることになりました。その後、ミツバチから養蜂の道具まで、全て城島さんが手配を進めてくれたことで、2010年6月から本格的な養蜂活動をスタートさせることができました。
―さっぱちの活動について教えてください。
毎年5月頃~10月頃に、札幌中心部にあるビルの屋上にミツバチの巣箱を設置し、採れた蜂蜜を「さっぱち蜂蜜」として販売する他、商品開発を行っています。蜂蜜は採取した時期によって蜜源となる花が変わるため、色や香り、味が全く異なります。「札幌の季節を味わえる」ことがブランドとしての強みになると考え、あえて採取した日ごとにパッキングすることをコンセプトとしています。また、ミツバチは巣箱から半径3~4km に咲く花や街路樹から蜜を集めるため、自然環境と都市の共生を示す環境指標生物となっています。そのため、ビルの屋上にハーブロールを敷いたり、プランターで野菜を育てるなど「みつばち空の道づくりプロジェクト」という緑化活動を通し、ミツバチにとっての環境を整えることで都市部のヒートアイランド対策にも貢献できればと考えています。単に蜂蜜の採取や販売をすることだけではなく、ミツバチ目線で都市の環境を見直し、市民が主体的に楽しみながら参加できるまちづくり活動を行うことを目指しています。
(写真左)ビルの屋上に設置したプランターのお世話も、サポーターによって支えられている。(写真右)採れた蜂蜜の瓶詰め作業は、サポーターたちが自ら衛生管理を徹底して行う。また、都市型養蜂に興味のある市民の他、子どもたちを対象としたミツバチ見学会や採蜜ワークショップを毎年開催しています。中でも、夏休みに実施している小学生を対象としたワークショップでは、ミツバチの生態に関するクイズや座学に加え、採蜜体験、屋上で育てている野菜のお世話や収穫、蜂蜜を使ったロウソク作りを行うこともあり、毎年約20人が参加します。その他、ミツバチを主役とした紙芝居を作成し、児童会館や小学校などで読み聞かせを行ったり、さっぱち蜂蜜と北海道や札幌で育った農作物を使った料理教室なども実施しています。
(写真左)子どもたちにミツバチの生態を伝えるワークショップを実施。(写真右)スタッフの製菓衛生師という資格を活かした料理教室では、さっぱち蜂蜜を使い、食育と地産地消を学ぶ。ミツバチは蜜を集めるだけでなく、人も集めるという実感
―活動にはどんな方が関っていますか?
日々の蜂蜜採取や瓶詰め、緑化活動などの作業は個人のサポーターが事務局スタッフと共に行っています。お店や企業など法人のサポーターには蜂蜜を使ったオリジナルのスイーツやせっけん、コスメティックグッズなど、さっぱち蜂蜜の特性を生かした商品開発の面で協力をしてもらっています。また、活動を始めた年には、とある小説を読んで養蜂家を目指していた中学生の男の子との出会いがありました。夏休みには城島さんと歳の差70歳超えの師弟関係を築き、都市部の屋上で養蜂について学ぶということも、この活動があってこそだと感じました。結果的に彼の夢は途中で変わってしまったものの、彼のお母さんは「自分が楽しいから」と今なお読み聞かせボランティアなどの活動を続けています。世代も職業も異なる人たちがミツバチをきっかけとして集まり、実際にコミュニティーが形成されたことに当初は驚きましたが、関わるメンバー誰もが決して義務などではなく、「楽しい」というポジティブな気持ちで参加していることが嬉しいです。常に外部から参加しやすいようなオープンな雰囲気であることを心掛け、メンバーが自主的に「楽しい活動だから来てみない?」と声を掛けることによってつながりが少しずつ広がっており、「ミツバチは蜜だけではなく、人も集める存在」ということを日々実感しています。
ミツバチと人をつなぐ活動を続けるための仕組みづくりが課題
―今後の目標や課題について教えてください。
ミツバチが人と人をつなぐこの活動自体を長く存続させるというのが一番の目標ですね。これまでは、主に蜂蜜を採取し、販売することで活動を行ってきましたが、ボランティアに頼りきりな状況なため、自立運営できるような仕組みづくりが課題です。蜂蜜はその年によって採取できる量が変わるため、気候に左右されないような取り組みを目指しています。そのための第一歩として、2017年12月に初の常設店舗となる「サッパチトパン」を札幌駅前にオープンし、蜂蜜の他、コーヒーやトーストなどをテイクアウト形式で販売しています。また、さっぱち蜂蜜の商品開発のため、企業とのつながり作りにも力を入れていきたいです。今後は料理教室や紙芝居の読み聞かせの活動をパッケージ化させることや、小学生対象のワークショップ企画についても、札幌市内の児童会館などと協力しながら増やしていければと考えています。その他、ミツバチを増やすビルの屋上緑化活動をもっと広げることで、都市部の環境改善に少しずつでも貢献していきたいです。
特定非営利活動法人サッポロ・ミツバチ・プロジェクト (団体ページへ)
■ 住所 | 札幌市豊平区豊平4条12丁目1番20号 |
■ 電話 | 070-5603-8780 |
■ FAX | 011-351-5334 |
■ メール | info@sappachi.com |
■ ホームページ | http://sappachi.com/ |
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今後の開催予定
ビルの屋上にて養蜂と緑化活動を行っている。毎年夏に小学生対象のワークショップを行う他、絵本の読み聞かせ活動、蜂蜜を使った料理教室などを開催。見学も随時受け入れており、活動のボランティアも募集中。詳細は団体ホームページまたはFacebook、Twitterにて告知。問い合わせはメール、または電話で受け付け。
取材を終えて
蜂蜜を採取し、販売する目的のためだけではなく、サポーターの皆さんがわずか40日間の命といわれるミツバチと向き合い、関わりを楽しんでいるということが印象的でした。カラス対策に端を発した都市型養蜂がさまざまな出会いを生み、そこに集まる人々の「楽しい」という気持ちを原動力として、コミュニティーがさらに活性化していくという様子に「ミツバチは蜜だけでなく、人も集める」というつながりを強く感じました。
※2017年12月6日現在の情報です。