ロックフェスでの環境対策活動

未来を紡ぐ人
若き力と共に地域課題に挑むezorock代表理事の草野竹史さんにお話を伺いました。

特定非営利活動法人ezorock代表理事 草野竹史さん

特定非営利活動法人ezorock(エゾロック)
代表理事 草野竹史(くさのたけし)さん

若者に絶大な支持を得ている夏のロックフェス「RISING SUN ROCK FESTIVAL(以下、ライジング)」。2001年4月、ごみの山だった会場をきれいにし、きれいな状態を維持しながら次世代につないでいきたいという想いからezorockを設立。2005年には勤めていた会社を辞め、翌年、単独事務所と専従スタッフを構えてezorockという組織を本格的に事業化させることを決意。2013年にNPO法人格を取得し、現在まで代表理事として200名以上の会員とともに、若者のアイデアやパワーを地域に届ける活動を展開している。

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僕たちにとって理想的な社会のヒントがロックフェスの中にあります。

50年後もこの場所ですばらしい音楽を楽しめるように、自分で出したごみは自分で分別します。困っている来場者がいれば、スタッフが手伝います。 50年後もこの場所ですばらしい音楽を楽しめるように、自分で出したごみは自分で分別します。困っている来場者がいれば、スタッフが手伝います。

―ライジングでの「環境対策活動Earth Care」の取り組みについて教えてください。

 ライジングの会場で自分で出したごみを自分の手で分別してもらう、ごみの分別ナビゲートという活動があります。この活動が開始された20年位前には、ボランティアスタッフがごみ袋を持って、来場者のところに行って「ビン・カン・ペットボトルを入れてください」と言って練り歩きをしていました。

 そうしたら、「座っているだけで、取りに来てくれるから楽ですね」と来場者から言われてしまい、「これは少しやり方が違うんじゃないだろうか」という疑問から、来場者が(自分で)ごみを持ってきて分けてもらえるような仕組みをどうフェスティバルの中に作っていくか、その雰囲気づくりをどう浸透させていくかということにどんどんスイッチしていきました。

―来場者の意識に変化を感じることはありますか?

 ありますね。「お金を出したのだから主催者で全部やってくれ」というスタンスだと、いろいろなものが成り立たなくなってきています。特にロックフェスティバルですと、主催者も最初から「私たちも50%しか作れない」ということを言っていて、残り半分は「来場者の一緒に作り上げていこうという想いと行動がないと成り立たない」と言っています。

 やはり、ライジングは不思議な空間だと思います。本当に人があたたかくて、困っている人がいたら「皆で助け合おう」ですとか、食べ物も少し余っていたら横にいる知らない人に「食べますか?」と平気で言えますし。日常で隣に住んでいる人に余った食べ物を持っていくという習慣は今はほとんどないですよね。なので、僕たちにとって理想的な社会がライジングだと思っています。自分のことは自分でやって、困ったことはお互いで助け合えるような社会。「そういう社会にどうやったらなるのかな」というのが永遠のテーマです。毎年あの会場に行って自分の目指したい方向がぶれていないかを確かめています。ライジングは僕たちにとって活動の原点でもあり、道しるべでもあるのです。

ストーリーのあるプロジェクトにすることを意識しています。

写真左)会場内で出た生ごみの堆肥で育ったじゃがいもを、翌年来場者にふるまう、通称「お帰りじゃがいも」。“見える循環”がテーマです。写真右)出荷されず森で朽ちていくだけの木を加工して販売するプロジェクト「NINOMIYA」。ライジングの会場でも薪割り体験が行われました。 写真左)会場内で出た生ごみの堆肥で育ったじゃがいもを、翌年来場者にふるまう、通称「お帰りじゃがいも」。“見える循環”がテーマです。写真右)出荷されず森で朽ちていくだけの木を加工して販売するプロジェクト「NINOMIYA」。ライジングの会場でも薪割り体験が行われました。

―活動に参加したいと思ってもらうために意識していることはありますか?

 例えば、「RSRオーガニックファーム」という活動のことを説明する時「ライジングで出た生ごみを堆肥にして、じゃがいもを作って、翌年ライジングの来場者にそのじゃがいもを提供します」と言うと、皆さん「あぁ、なるほど」と思ってもらえるので、そういうできるだけわかりやすいストーリーのあるプロジェクトにすることを意識しています。

 他にも、プロジェクト「NINOMIYA」という、若者が森に入って木の使われていない(規定の長さに合わせて切ったときに残ってしまう)部分を引っ張り出して加工して、都市部に販売し、その収益の一部をまた若者の研修の予算に使うという活動があります。単純に「森作りしてます」や「薪割りしてます」だけですとヒットしなかったのですが、これは現代の二宮金次郎プロジェクトだということで、元々の森づくりの活動を、リメイクして「NINOMIYA」というストーリーで活動を始めたところから、大幅に参加者が増えました。 もちろん全部うまくいっているわけではありませんが、「納得する」「共感する」という、“(腑に)落ちる”感覚をできるだけ大事にしています。

信頼できるコミュニティを持っていることが日々の活力になります。

―ボランティアだから得られるもの、どんなことがあると思いますか?

 都市部に暮らす人には今「3つの場所が必要だ」と言われていて、1つ目が自分の住む場所や帰る場所、2つ目が学校や職場。それに加えて、3つ目の場所“サードプレイス”といわれる場所が必要だと言われています。このサードプレイスは、関わっていても、お金が入って来るわけではないんですけれど、自分が思ったことは言ってもいいし、肩書きも関係ないですし、自分が「いいな」と思ったものが形になることもあります。

 ライジングの活動の中でも、若い人がポンと言ったことがそのまま会場で採用されることがあります。自分らしく存在できて、かつ職場じゃない人間関係や新しいつながりを構築できる場所。そして、ただの遊びではなくて、自分たちの将来に関わる問題を一つ一つ解消していけるような、信頼できるコミュニティを持っていることが、日々の活力になると思います。

―いろいろな価値観との出会いが選択肢を生むということですね。

 そうですね。例えば、子どもの教育に関わろうと思うと、皆、学校の先生か塾の講師しか選択肢が浮かばない場合が多いのですが、実は他にも、教育の仕事はあります。そういう他の仕事をこの団体を通じて知って、「こっちの方が自分の感覚にフィットするかも」という思いでNPO業界の教育の現場に進んだ人がたくさんいます。やはり活動を通して人が育つと思うので、どちらも大切にしたいです。課題も解決していきたいですし、それを通して若い人たちが育つように、課題の解決と若者が育つ仕組み作り、その両輪をしっかり作ることが大事だと思います。

特定非営利活動法人ezorock (団体ページへ)

特定非営利活動法人ezorock
■ 住所 札幌市中央区南9条西3丁目1-7
■ 電話 011-562-0081
■ メール info@ezorock.org

石狩で開催される野外ロックフェス「RISING SUN ROCK FESTIVAL」で、2000年に行われた環境対策活動をきっかけに設立。野外イベントやお祭り会場でのごみの分別ナビゲートをはじめとする「環境対策活動Earth Care」のほか、地域の課題を解決するための活動を展開しています。


コミュニティスペースがあります。

築40年以上の建物をリノベーションした事務所1階は、様々な活動を作り上げていくための、コミュニティスペースとして開放されており、暖かい薪ストーブが迎えてくれます。ボランティアスタッフが毎日のように集い、ここから新しいアイデアやプロジェクトが生まれています。

開放時間 火曜~金曜 16:00~21:30
土曜 13:00~21:30
※日曜・月曜はお休み
アクセス 地下鉄南北線「中島公園駅」1番出口から徒歩3分
(取材・文・編集 総合商研株式会社)
※2017年1月13日現在の情報です。