小児がん患者の学習支援を行い、子どもたちの未来をつなぐ
小児がん患者の中には、治療の副作用や勉強の遅れを気にして不登校になる子どもが少なくありません。長男の白血病闘病をきっかけに勇者の会を立ち上げ、患者の勉強と心のサポートを行なっている同会代表の阿部美幸さんにお話を伺いました。
勇者の会
代表 阿部美幸(あべみゆき)さん
小樽市出身。高校卒業後、ヤマハ株式会社に就職。道内のリゾートホテルの立ち上げに関わるなど北海道の観光に関わってきました。結婚後函館に引っ越し、転勤族のサークルを立ち上げるなど活発に活動。現在は自ら立ち上げた勇者の会の代表を務めながら、長男の闘病生活をささえています。
治療を乗り越えて待っている現実。サポートを必要としている人のために
―活動のきっかけ、想いについて教えてください
2016年夏に、長男が突然、急性リンパ性白血病を発症しました。1年1か月の入院生活を経て退院後は自宅での維持療法が1年3か月続きました。維持療法とは自宅での抗がん剤治療のことで、抗がん剤の副作用で毛が抜け落ちます。その後は免疫抑制剤を飲み、免疫の数値が上がるまで外出することができません。しかし義務教育なので学校には行かなければなりません。そのためのサポートが北海道にはありませんでした。「無いなら自分で始めればいい」という思いで、2017年11月に勇者の会を設立しました。
―勇者の会の活動内容を教えてください
勇者の会は勉強サポートチームという子どもたちの学習面をささえるチームを結成しています。学習支援を週2回、勉強サポートチームの大学生や社会人が札幌市市民活動サポートセンターで教室を開いています。自宅が遠方で教室に通えない子どもにはLINE電話を使った指導も取り入れています。また、子どもたちとの交流も大切にしています。とくに映像の力は子どもたちにいろいろな世界を見せることができます。近年では北海道情報大学の協力を得てプロジェクションマッピングを製作しました。外出できない子どもたちを映像の力で浜辺に連れて行き、打ち寄せる波で遊ぶ体験をしました。
(写真右)北海道情報大学と連携したプロジェクションマッピングで波打ち際を体験しました
子どもたちの将来想い、活動運営は慎重、厳格に
―勇者の会の由来を教えてください
何度にもわたる抗がん剤治療の副作用で、髪の毛が抜けてしまいます。最後の治療まで抜け落ちなかった髪の毛を子どもたちが「勇者な髪の毛だね。退院して最後まで残っていたら一本でも大切にトリートメントしてあげようね」と話していたことから勇者の会と名付けました。
―運営はどのように行われていますか?
活動は患者のプライバシーに接します。とくに学生や社会人のスタッフ採用に際しては、面接を数度にわたって行い、かなり厳しいものにしています。学習支援を子どもの自宅で行う場合は定期券の範囲内と制限しています。移動費も自費なので相当な想いがないと務まりません。学習方法は子どもの状況に応じてスタッフが一緒になって計画を立て、目標を設定して進めます。高校生ともなると、出席日数が滞ると留年か退学という現実があり、退学してしまうと高卒認定試験合格を目指して自分の力で勉強しなければなりません。子どもたちの心にも向き合いながらどういうプランで実施していくか綿密に計画を立てるようにしています。
(写真右)退学を余儀なくされ、高卒認定試験の合格を必死に目指し、2019年合格した子へのサプライズ祝い
同じ苦労はさせたくない。心に寄り添う精鋭スタッフ
―どんな方が参加していますか?
勇者の会の勉強サポートチームは大学生や社会人15人が参加しています。大学生は塾や予備校で現役のアルバイト講師をしていて、卒業後は医師や看護師、臨床心理士を目指している方もいます。社会人は小中学校の教員免許取得者、高等学校教員免許取得者、中学校の不登校コーディネーター、自宅で塾を開いている教師たちです。そしてスタッフの半数ががん経験者です。勇者の会を取り上げた新聞記事を見て、過去に苦労した経験から手伝いたいとボランティアを申し出てくれた方々です。
―スタッフの感想を教えてください
過去に治療を乗り越えてきたスタッフは「私の時にはこういう支援がまったくなかったので、自分の力で必死になってやるしかなかった。今はものすごく恵まれているので、諦めないでほしい」と子どもたちを勇気付けて指導をしています。
団体への参加方法
参加対象/大学生、社会人。シニアボランティアも募集しています
申し込み方法/メール
活動頻度/週2回
参加費用/交通費等自費
家族が直面する経済的な問題。難病治療の負担を少しでも軽く
―今後の目標を教えてください
新しいかたちのファミリーハウスをつくりたいです。ファミリーハウスとは病院近辺にできるだけ低価格で利用可能な宿泊施設を用意し、難病治療で自宅から遠く離れた病院に長期入院する子どもとその家族を支援する施設です。患者の不安や経済的不安を軽減したいと考えています。また、ただ場所を提供するだけではなく、患者や家族を精神的にも支えられる場所にしたいです。
勇者の会(団体ページへ)
■ 代表者 | 阿部美幸 |
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■ 住所 | 非公開 |
■ 電話 | なし |
■ FAX | なし |
■ メール | yusyanokai464923@gmail.com |
https://www.facebook.com/profile.php?id=100033165271069 |
取材を終えて
取材冒頭から、阿部さんは「患者の立場に立ったボランティアを」と勇者の会のスタンスを強調していました。それはボランティア側だけで考えた支援が必ずしも相手が必要としていることと一致しないということを指しているのだと思いました。善意だけではなく、社会の課題解決に必要な取組の中に、ボランティアの正しい在り方を見た気がしました。
(取材・文・編集 株式会社Mammy Pro)
※2019年10月16日現在の情報です。