「高校生」と「未来」をつなぐ

若者が想うつながるカタチ
「ナナメの関係」で高校生の意欲を引き出したい

特定非営利活動法人いきたす 代表理事 江口彰(えぐちあきら)さん

高校生の自己肯定感やモチベーションを高めることを目的とした出前授業を行っている団体があります。高校生たちに本音を語ってもらうために、関係の近い親や先生でもない、同じ視点になりがちな友達でもない、少し年上の先輩「ナナメの関係」から刺激を受け、対話することで自己理解を深めてほしい―。その想いを伺いました。

特定非営利活動法人いきたす
代表理事 江口彰(えぐちあきら)さん

北海道大学大学院教育学研究科修了(教育学修士)。学生の課外活動を実践研究し、キャリアにまつわる教育関連事業を手がける。2010年より、「カタリ場」を北海道エリアに導入するため、有志と活動を始める。旭川東栄高校を皮切りに、札幌圏内のみならず道内各地の高校に、高校生と学生の対話型教育カリキュラムの普及に務めている。特定非営利活動法人北海道コミュニティシネマ・札幌の理事、北星学園大学、北海道工業大学の非常勤講師を歴任。

対話の中から生まれる新しい可能性を信じたい

―特定非営利活動法人いきたすを設立したきっかけを教えてください。

 大学院時代の友人が、東京で行われている高校生への出前授業「カタリ場」という活動が面白い、北海道でもやろう、と声をかけてくれたことがきっかけでした。
 私自身も教育学を研究する中で「カタリ場」について興味を持っていたため、友人と共に、2010年に特定非営利活動法人CANを立ち上げ、活動を始めました。その後、「カタリ場」業務の拡大に伴い、2014年1月から現在の特定非営利活動法人いきたすを立ち上げて活動しています。「カタリ場」は、認定NPO法人カタリバ(東京)が、全国4箇所でそれぞれの連携パートナーと、北は北海道から南は九州まで各地で年間4万人以上の高校生たちに展開しています。私は北海道エリアを任されている連携パートナーとして、年間4,000人以上の道内の高校生たちや、一部の中学校で実施しています。

対話を通して自分の内面を見つめることで、一歩踏み出す力が生まれる

―現在の活動内容を教えてください。

 主に、対話型の出前授業、「カタリ場」を行っています。「カタリ場」は授業のことを指し、カタカナの「カタリバ」は活動そのものを指すように定義付けて活動しています。カタリ場は、高校生の意欲を引き出すことを目指した出前授業です。学生が主体となり、道内の高校に出向き、総合学習の時間を2時間使い、4~6名程度のグループに分かれ座談会を行います。アイスブレイク(※1)をしながら学生と高校生の距離を縮めていった後に、学生たちから、大学生活で熱中していることや、高校生の頃の失敗談などを聞いてもらい、共感や視野を広げていきます。そのうち自らの話をし始める高校生が出てくるなどの変化が起こり、そこを深く堀り下げたり、寄り添うことによって、自己を見つめたり、悩みを深めたり、前向きになろうとする気持ちが生成されていきます。最後に今日からできる小さな行動などを「約束カード」に書いて授業を終えます。参加した高校生からは、「こんなに自分のことを話したのは初めて。話を聞いてもらえてうれしかった」など、「ナナメの関係」にあたる学生との対話によって、「自分もこんな大人になりたい!」と思える出会いをきっかけに、将来へ主体的な“一歩”を踏み出してもらえるように授業を行っています。
(※1)アイスブレイクとは、初対面の人同士が出会う時、その緊張をときほぐすために、自己紹介や簡単なゲームなどをする手法

(写真左)カタリ場の様子。少人数のグループで集まって対話を始めます。(写真右)ファシリテーターの学生が高校生との距離を縮めていきます。 (写真左)カタリ場の様子。少人数のグループで集まって対話を始めます。(写真右)ファシリテーターの学生が高校生との距離を縮めていきます。

―「カタリ場」を準備する学生たちについて教えてください。

 この授業は、学生のプロジェクトマネジャー1人、コアスタッフ2人の計3人の「企画チーム」で準備をします。準備期間は概ね3カ月で、チームビルディング(※2)やガイダンス(※3)を受け、対象生徒のアンケート調査や学校を訪問しヒアリングや下見をします。その後、実施規模に応じて学生の仲間を招集し、研修会に招いて対象生徒像を伝え、そして本番は進行役や進行補助要員として動き、実施後には事後アンケートをとって報告書を書き上げ提出するといった作業までを行います。社会に出た時にすぐに活用できる実務スキルが身につくなど、活動を通じて多くの学びを得ている様子がみられます。
(※2)チームビルディングとは、仲間が思いを一つにして、一つのゴールに向かって進んでいける組織づくりのこと
(※3)ガイダンスとは、生徒の自発的な発展を期しながら一定の方向に導こうとする指導

(写真左)事務所で次回のカタリ場について打ち合わせする様子。学生たちはすべてボランティアで活動している。(写真右)エルプラザで、企画の打ち合わせをしている学生たち。 (写真左)事務所で次回のカタリ場について打ち合わせする様子。学生たちはすべてボランティアで活動している。(写真右)エルプラザで、企画の打ち合わせをしている学生たち。

もっと多くの生徒へ「カタリ場」を届けていきたい

―今後の目標は何ですか?

 活動を通じて感じることは、地域による「子どもたちの育つ環境の格差」です。生まれた家庭や地域が違うだけで、学ぶ機会に差が生じ、近年その差が広がっていると言われています。それを乗り越えるため、何ができるのか、その問いへの答えになるのが我々の行っている「カタリバ」なのだと実感しています。首都圏の「カタリバ」が先駆的な仕掛けを試みていることを参考にし、今後も歩みを進めていきたいと考えています。また「カタリバ」で頑張ってきた学生たちの社会で活躍する流れが、最も大きな意味を見いだしてくれるだろうと思っています。

特定非営利活動法人いきたす (団体ページへ)

特定非営利活動法人いきたす
■ 住所 札幌市中央区南1条西5丁目14番地1札幌証券取引所ビル 株式会社ファウンド内
■ メール info@ikitas.net
■ ホームページ http://ikitas.net/
■ Facebook https://www.facebook.com/katariba.hokkaido/

今後の開催予定

全道各地でカタリバを開催。今後の活動は、団体のホームページまたはfacebookへ。問い合わせはメールで受け付け。

取材を終えて

「対話するエネルギーが必要。エネルギーが必要なことをあえてする、実際に生の声を聞くことに、生きている意味があるのでは」という江口さんの言葉に感銘を受けました。スマートフォンの普及で顔を合わせなくても簡単にコミュニケーションが取れる現代ですが、あえて対話を通して、自分のやりたいこと、できることは何だろう、と考え話し合うことの大切さを広める素晴らしい取り組みだと感じました。

(取材・文・編集 株式会社Mammy Pro)
※2018年2月1日現在の情報です。