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平成遠友夜学校の活動を、北海道大学の学生ボランティアがご紹介します。

私たちが紹介します! 平成遠友夜学校 学生ボランティア写真右から代表の松田さん、上川さん
平成遠友夜学校 学生ボランティア
写真右から代表の松田さん、上川さん
北海道大学キャンパス内にある遠友学舎で、札幌農学校の歴史はもちろん生物や宇宙の最新研究など毎週さまざまなテーマで、市民のための講演会が開かれています。
北海道大学キャンパス内にある遠友学舎で、札幌農学校の歴史はもちろん生物や宇宙の最新研究など毎週さまざまなテーマで、市民のための講演会が開かれています。

松田さん 平成遠友夜学校の成り立ちを、校長にお聞きしました。

 平成遠友夜学校の校長は北海道大学獣医学部の藤田正一名誉教授、教頭は学生ボランティアのメンバーです。そのルーツは札幌農学校時代の、新渡戸稲造の遠友夜学校にあります。藤田校長にお聞きしました。

「札幌農学校の精神、ボランティアの精神を今に伝えたい」とお話される、藤田北海道大学名誉教授。平成遠友夜学校の設立者であり校長でもあります。 「札幌農学校の精神、ボランティアの精神を今に伝えたい」とお話しされる、藤田北海道大学名誉教授。平成遠友夜学校の設立者であり校長でもあります。

―改めて、新渡戸先生の遠友夜学校について教えてください。

 遠友夜学校は、1894年、北海道大学(以下 北大)の前身である札幌農学校の教授であった、新渡戸稲造夫妻が創った学校です。札幌市中央区南4条東4丁目(現在は新渡戸稲造公園)に、今もその跡地があります。
 ある日、新渡戸先生の奥様である萬里子 (メリー・P・エルキントン)さんの乳母だった女性が亡くなります。その方は孤児でエルキントン家に引き取られ、結婚することなく遺言でメリーさんに遺産を残されました。そのお金が新渡戸稲造夫妻に届くわけです。

 当時、新渡戸先生もまだ若く、札幌市内には貧しくて学校に行けない子どもたちがたくさんいました。新渡戸先生夫妻は、「そのお金は、自分たちのために使うというより何か世の中のためになることに使いたい。貧しい子のための学校を作ったらどうだろう」と考え、500坪くらいの土地を買いました。それでお金はなくなってしまうのですが、学生たちがボランティアで先生役を引き受けました。彼らは報酬をもらうわけではなく、逆に自分たちの工面したお金で子どもたちに教科書などを買い与え、勉強を教えました。ところが1944年、遠友夜学校は戦争で廃校となります。せっかく続いた50年にもわたる北大生によるボランティアの歴史が、終わってしまうわけです。

―現在の「平成遠友夜学校」は、いつから始まったのですか?

 それから57年経った2001年、北大の創基125周年を記念してこの建物(遠友学舎)がつくられることになりました。ところが、当初は十分には活用されていませんでした。そこで、せっかく遠友夜学校にちなんで名付けられた建物なのだから、市民と大学の交流の場として役立てたいと考え、北大の歴史に詳しい山本玉樹さん(北大講師/科学思考史)にお願いし「クラーク講座」を開設しました。

 「クラーク講座」は3年ほど続けたのですが、毎年聞きに来てくださる方が多いので、「いつも同じ話では気の毒」ということで、「平成遠友夜学校」を始めました。北大にはたくさんの学部や多彩な授業がありますので、その先生や学生がそれぞれの専門をお話ししてみてはどうだろうかと。
 新渡戸先生は遠友夜学校の校長でしたが、実際には学生が主体となって運営をしていました。それに習って、私が校長で学生たちが教頭としました。北大の学生たちにボランティアの精神を学んでほしいし、市民との交流をしてほしい、ということで始まったのが現在の平成遠友夜学校です。

上川さん 市民と大学、みんなで一緒につくる講演会です。

写真左)平成遠友夜学校の「教頭」として、学生ボランティアが学内外から講義を行う先生を探し、依頼を行います。写真右)講義終了後、講師を務めてくださった方、参加した市民、学生ボランティアが歓談を楽しむ風景も夜学校ならではです。 写真左)平成遠友夜学校の「教頭」として、学生ボランティアが学内外から講義を行う先生を探し、依頼を行います。写真右)講義終了後、講師を務めてくださった方、参加した市民、学生ボランティアが歓談を楽しむ風景も夜学校ならではです。

 「平成遠友夜学校」は現在、遠友学舎で毎週火曜日18時15分から開催しています。校長のお話にあったように、知り合いやゼミの先生、他の大学や企業の方にも依頼して、無償で知識を共有しあう取り組みを行っています。時には、エドウィン・ダン記念館など学外へ出かけて行う回もあります。大学の研究を市民に伝えたい、そんな気持で毎回テーマが偏らないよう頭を悩ませています。

 「平成遠友夜学校」は、市民のための無料の講演会です。いつも来てくださる方や準備を手伝ってくださる方たちもいて、本当に「みんなでつくる講演会」だなと実感しています。クラーク講座の初回から1度も休まず来てくださる方もいます。

 私たちにとっても、学校の講義ならどうしてもテストや成績が関係してしまうのですが、そういうことを気にせずいろいろな専門分野のお話を聞ける、こういった場は少ないと思います。おもしろいし、勉強になるので、同世代の学生にもぜひ見てもらいたいと思います。

樺沢さん もうひとつ、学生ボランティア「ゆうがく班」の活動があります。

写真左)学校帰りに軽食を購入して北大にやってくる高校生。わからない箇所を聞きながら、早速自習に入ります。写真右上)教育格差の問題について「高校に入った後に差がついていく」と話す小山田さん 写真右下)「人とふれあう大事な時間。教えることで自分のスキルも上がる」と話す樺沢さん 写真左)学校帰りに軽食を購入して北大にやってくる高校生。わからない箇所を聞きながら、早速自習に入ります。写真右上)教育格差の問題について「高校に入った後に差がついていく」と話す小山田さん 写真右下)「人とふれあう大事な時間。教えることで自分のスキルも上がる」と話す樺沢さん

 「平成遠友夜学校」には、もうひとつ是非知ってもらいたい取り組みがあります。それは学生主体で行っている学習支援「ゆうがく班」の取り組みです。現在5名ほどの学生ボランティアメンバーが、毎週2回(月・金曜日)、特に経済的な理由や家庭の理由で学習が困難な高校生をサポートしています。この活動を立ち上げた小山田さん(3年)と、今年から仲間に入った樺沢さん(1年)にコメントをもらいました。

―この活動を立ち上げたきっかけは?

 平成遠友夜学校のメンバーになって、新渡戸先生の夜学校について知り、ずっと再現したいと思っていました。今、高校に行っていない人はほとんどいない時代ですよね。行った後に差がついてくる。だからこそ、学びたい意欲のある高校生をサポートする場所が必要だと思います。ちょうど貧困問題や教育格差について調べていたこともあり、「平成遠友夜学校でもぜひ、その精神を受け継いで再現したい」と考えました。

―どんな風に支援していますか?

 基本的に、講義形式ではなく自習形式です。高校生が手を上げたら、学生ボランティアがそれぞれ得意分野に応じてカバーしあって応えます。通信制や定時制の高校で宿題に困っていたり、大学を目指す人もいて、それぞれの生徒に合った「学び」の場を目指しています。

 「どうしたらうまく伝わるかな」と教え方を工夫したり、時に進路の相談に乗ったりもしています。勉強を通して人と人がふれあう機会でもあるので、そうした中でお互いが成長できているのではないかと思います。


 市民に向けた「平成遠友夜学校」の公開講座、新渡戸稲造の精神を受け継ぐゆうがく班の学習支援。私たちの活動を必要としている1人でも多くの方たちに知っていただき、参加してもらえたらうれしいです。

平成遠友夜学校 (団体ページへ)

北海道大学内モデルバーン横(北18条環状通エルムトンネルの北側)にある遠友学舎。北海道大学創基125周年を記念して建設された。 北海道大学内モデルバーン横(北18条環状通エルムトンネルの北側)にある遠友学舎。北海道大学創基125周年を記念して建設された。

校長:藤田正一さん (獣医学部名誉教授)
教頭:北海道大学 学生

平成遠友夜学校 ※市民向け公開講座
日時 毎週火曜 18:15~
会場 北海道大学 遠友学舎
平成遠友夜学校「ゆうがく班」 ※学習支援
日時 毎週月・金曜
会場 北海道大学人文・社会科学総合教育研究棟

◎お問い合わせ
平成遠友夜学校(代表:北海道大学理学部2年 松田さん)
enyuyagakko@gmail.com

新渡戸稲造「遠友夜学校」について

 1894年に札幌農学校教授であった新渡戸稲造と萬里子 (メリー・P・エルキントン)夫人により設立された学校。社会事業に深い理解を持つ人々の寄付金を中心に運営され、教師も北大の学生が新渡戸博士の意志を引き継いで代々無給で奉仕してきました。札幌におけるボランティア活動の原点でもありました。

新渡戸稲造と萬里子夫人 (所蔵 北大付属図書館) 新渡戸稲造と萬里子夫人 (所蔵 北大付属図書館)
 
 
(取材・文・編集 総合商研株式会社)
※2017年1月13日現在の情報です。