一般社団法人北海道ブックシェアリング

読書の楽しさと大切さを伝え、図書に関わる人の思いをつなげる

北海道の読書環境を改善するために立ち上げ、読み終えた本の再活用などを通じて読書の楽しさと大切さを伝える取り組みを続ける「北海道ブックシェアリング」。代表の荒井宏明さんに、活動についての思いを伺いました。

読書環境をみんなで考えながら
北海道を変えていきたい

一般社団法人北海道ブックシェアリング
代表理事

荒井宏明(あらいひろあき)さん

1963年北見市生まれ。新聞記者を経て、札幌市内で編集事務所を経営。北海道の読書環境の悪化を懸念する図書関係者や教育関係者と共に2008年「北海道ブックシェアリング」を設立。北海道子ども読書推進会議委員、札幌大谷大学社会学部の非常勤講師も務める。本や読書に関するアドバイザーを数多く務め、読み聞かせや本棚作り、絵本カバーを使ったバッグ作りなども行っている。

読み終えた本を再活用し、読書環境に悩む施設や団体に無償で提供。

北海道ブックシェアリングを設立したのは2008年。北海道の読書環境が悪化する状況を変えるために、図書関係者や教育関係者と共にボランティア団体として立ち上げました。軸となるのは読み終えた本の再活用で、不要になった本を寄贈していただき、本の不足や老朽化で困っている施設や団体に無償で提供しています。また、東日本大震災や北海道胆振東部地震の被災地への図書支援・読書環境整備支援も行い、これまで6〜7万冊を提供しています。活動はボランティア会の方々が中心となり、寄贈された図書の分類・整理、イベント運営、被災地支援などのお手伝いをしていただいています。ボランティアに参加しているのは本好きな方々ばかりで、毎週土曜日の活動を皆さん和気あいあいと楽しんでいます。さらに、図書の楽しさや大切さを知ってもらおうと、古書市や読書会、読み聞かせ、ビブリオバトルという書評ゲームなど、さまざまな本と読書に関するイベントも展開しています。

北海道の読書環境は全国ワーストレベル。地域の将来のために知的インフラの整備を。

北海道の読書環境は悪化する一方で、小学校の図書館の図書整備率はワースト1位、公共図書館の設置率はワースト4位、書店がある自治体の割合はワースト6位と、全国ワーストレベルの極めて深刻な状況です。道内各地を回っていると、読書環境の格差の広がりを目の当たりにすることが多く、疲弊しているまちが増えていることを感じます。一方で、20年、30年後のまちづくりを見据えて、「本がある場所、人が集まって話す場所が不可欠だ」と読書環境の整備の必要性を認識している地域もあります。地域に残ってほしい子が残らない、戻ってこないということも北海道の課題の一つですが、大学で教えている学生に「なぜ故郷に戻りたくないの?」と聞くと、「書店や図書館がないようなまちでは暮らしたくないから」という声を数多く聞きます。「ソ連」や「西ドイツ」という国名が記されている地図帳が学校や公民館に当たり前のように置かれているようなまちで暮らそうとか、子育てをしようという気持ちが起きないのも無理のない話です。優秀な人材に残ってもらいたかったり、戻ってもらいたければ、一定レベルの知的インフラの整備が必要です。

地域のネットワークを広げ、さまざまな人や団体がつながる本の取り組みを。

北海道は179市町村あり、そのうち人口1万人未満の小規模自治体の数は122(2018年現在)にも上ります。広大な北海道の全域をカバーするためには、地域と連動・連携してネットワークを広げ、さまざまな人や団体とつながりながら取り組んでいくことが必要です。私たちのような活動をする団体が道内に5カ所できれば、大きく変わっていくと思います。これからの北海道づくりを支えていくためにも、図書が豊かにそろっていて、アクセスしやすく、読むだけではなく、学んだり・語ったり・集まったりできる場所が必要です。そしてそこは安心・安全で、いかなる人も差別されず、敬意をもって迎え入れてくれる場であるべきです。また、ラーニングコモンズという「多機能で開放的な学習空間」を新たに設置する動きがあり、生涯学習時代に即したまちづくりを進めている自治体もあります。これまで地域における知の拠点でもあった「まちの書店」については減少する一方ですが、テーマを持ったセレクト書店など、次世代モデルといえる新たな取り組みも生まれています。今、本を巡るさまざまな動きや模索が始まっています。「紙でできた本は旧メディア」と思い込んでいる人もいますが、大きな勘違いと言わざるを得ません。自治体規模の大小に関わらず、未来志向の市町村は「本」というインフラに注目し、積極的に整備を進めています。読書環境について多くの道民に関心を持ってほしい、との思いを胸に、私たちはこれからも道内を駆け巡ります。

(取材・文・編集 株式会社アウラ)
※2019年3月1日現在の情報です。