「地域の遺産」と「人」をつなぐ

未来につなげたい北のたからもの
地域と人をつなぐ「北海道遺産」を未来へと生かしたい

特定非営利活動法人北海道遺産協議会 事務局長 萩佑(はぎたすく)さん

豊かな自然と、北海道で暮らす人々の歴史や文化、産業など、次世代に伝えたいかけがえのない財産を北海道民参加で選ぶ「北海道遺産」。地域の遺産と人をつなぎ、未来へと生かしていきたいー。その想いを伺いました。

特定非営利活動法人北海道遺産協議会
事務局長 萩佑(はぎたすく)さん

株式会社ノーザンクロス勤務。1997年の「北の世界遺産構想」から始まった北海道遺産協議会には、2003年に行われた北海道遺産第2回選定から関わる。2015年に事務局長に就任。

「北海道遺産」は北海道民が選ぶ、北海道の財産

―特定非営利活動法人北海道遺産協議会を設立したきっかけを教えてください。

 北海道遺産の取り組みは、1997年に当時の北海道知事が提唱した「北の世界遺産構想」から始まりました。「北海道全体を活気づけたい」「世界遺産だけでなく、北海道オリジナルの取り組みがあってもいいのでは」という想いから、北海道庁内にプロジェクトチームや民間の有識者による委員会を設置し、構想の具体化に向け検討を重ね、最終的に「北海道遺産」という名称になりました。北海道遺産は「北海道民が選ぶ、北海道の財産」として、候補を広く募集し選定することから、北海道庁主導ではなく地域支援を行う民間企業とも連携しながら盛り上げていきたいと考え、2001年に北海道遺産構想を中心的に担う民間組織として「北海道遺産構想推進協議会」が設立されました。その後、2008年に特定非営利活動法人北海道遺産協議会としてNPO法人化し、活動を続けています。

―活動内容について教えてください。

 活動は大きく分けてニつあります。
 まず一つ目は「北海道遺産の選定」です。北海道内における有形無形を問わずあらゆるジャンルから北海道の財産となる北海道遺産を広く募集し、これまでに2001年の第1回選定で25件、2004年の第2回選定で27件と、合計52件を決定し公表しています。
 二つ目は「北海道遺産の活動支援」です。そのうちの一つに「北海道遺産の周知」があります。選定された52件の遺産を北海道内や全国にPRするため、ホームページでの情報発信の他、北海道遺産をテーマとした「北海道遺産フォトコンテスト」の開催や地下歩行空間で各地域の北海道遺産に関わる団体の取り組みを紹介する「北海道ヘリテージウィーク」などのイベントを実施しています。また、支援の中でも特に大きな取り組みとしては、2011年から民間企業と連携して、各地域団体への助成活動を行っています。具体的には、北海道遺産の支援を目的として頂いた寄付を各団体へ助成し、PRや保全、外国人観光客などインバウンド対応、自然景観の保護などに活用してもらっています。
 その他、全道交流会など各地域団体のネットワークづくりに関する活動や、北海道遺産の保存・活用などを行う「担い手」の人材育成に関する活動なども行っています。

(写真左)季節で変わる湖の水位によって見え隠れする「幻の橋」を含む上士幌町の「旧国鉄士幌線コンクリートアーチ橋梁群」。(写真右)クラーク博士の構想による日本最古の洋式農業建築群「北海道大学札幌農学校第2農場」。 (写真左)季節で変わる湖の水位によって見え隠れする「幻の橋」を含む上士幌町の「旧国鉄士幌線コンクリートアーチ橋梁群」。(写真右)クラーク博士の構想による日本最古の洋式農業建築群「北海道大学札幌農学校第2農場」。

ただの文化財ではなく、地域の活性化を支援する北海道遺産

―「地域の遺産」と「人」をつなぐ活動とは?

 まず「より多くの人に各地域の遺産を知ってもらう」というものがあります。「北海道遺産フォトコンテスト」の実施がそのうちの一つです。北海道遺産の写真を撮るためには、実際に現地に行く必要があります。一人三点まで応募が可能ですが、一遺産一点までと決められているため、三点応募するためには三カ所の遺産に行くことになります。実際に北海道遺産に足を運んで、写真を撮ることは地域への支援にもつながり、さらにその土地を好きになってもらえれば、それが一番だと考えています。2017年には、企業と連携をして北海道遺産を巡る日帰りのバスツアーを空知(美唄・歌志内・赤平)、留萌(増毛・留萌)、平取の3地区で実施しました。中には子ども連れで参加されるご家族もいて、普段は入れない美唄の炭坑の中を、現地で昔働いていた方のガイド付きで見学をしたり、平取を回るコースでは、アイヌ模様の木彫りのコースターを作る体験をしたり、各地域の味覚や温泉入浴など魅力ある内容で、各日程とも約40名の定員がすぐにいっぱいになるほどの人気でした。
 また、歴史や地域資産をもともと好きな方が、北海道遺産に興味を持つことはありますが、全く興味がない方に対しても、ビジュアルから興味を持ってもらう新たなアプローチが有効だと考えています。そのため、北海道在住の若手アーティストなどを起用し、北海道遺産をモチーフとしたデザインにこだわり、パンフレットや手拭い、クリアファイル、エコバッグなどのグッズを作成しています。堅苦しいイメージを取り払うことで、さまざまな人が手に取り、そこから北海道遺産の魅力を知ってもらうなど、新たなファン獲得のきっかけにつながっています。

(写真左)美唄や赤平など空知の炭坑遺産を訪れ、炭坑内を現地ガイドと共に見学するバスツアー。(写真右)北海道遺産とともに遺産を支える地域団体を紹介する北海道ヘリテージウィーク。 (写真左)美唄や赤平など空知の炭坑遺産を訪れ、炭坑内を現地ガイドと共に見学するバスツアー。(写真右)北海道遺産とともに遺産を支える地域団体を紹介する北海道ヘリテージウィーク。

 その他にも「北海道遺産を通じた地域の活性化」があります。その地域の人々が遺産に関わり活動することで、地域を活性化させることが北海道遺産構想の理想です。そのため、選定についても、その遺産の「過去・現在・未来のストーリー」「地域の方々の思い入れ」「未来に生かせる可能性」という部分が大きなポイントとなっています。中でも、特に重視しているのは「地域の方々の思い入れ」です。いくら価値のある文化財だったとしても、地域で見向きもされず、思い入れがないものは、北海道遺産とは趣旨が異なります。遺産を未来へ伝えていくためには持続的な取り組みが必要であり、その地域の人たちに大事にされているということが重要だと感じています。北海道ヘリテージウィークでは、北海道遺産そのものだけでなく、地域で保全や活用に取り組む団体についてもパネル展示などを行い、紹介をしています。

北海道遺産を通じて、地域と人をつないでいきたい

―今後の目標や課題は何ですか?

 「北海道」が命名されて2018年で150年を迎えるにあたり、北海道遺産協議会でも約13年ぶりに北海道遺産選定を行います。選定事業を定期的に実施することで、北海道遺産構想や既存の北海道遺産の再周知にもつながります。また、各遺産を支える団体の中には若者の関わりが少なく、「担い手」の育成が課題となる地域も多いため、今後は人材育成の支援にも力を入れていきたいです。そのため、2018年度から「北海道ヘリテージラボ」(※)という人材育成プログラムを行い、地域資源の活用などを勉強できるような機会を提供する予定です。北海道遺産のある地域と共同し、より多くの人に足を運んでもらう仕組みを構築することによって、地域の遺産と人をつないでいければと考えています。その他にも、北海道遺産の取り組みに賛同し、応援して下さる方々や、北海道遺産に興味を持つ方を増やしていくことを目指しています。
(※)北海道ヘリテージラボとは、選定地域の方や、北海道遺産の取り組みに関心を持つ学生などを対象に、各地域で遺産の保全・活用を担う人材の育成や実地研修などを行うプログラムです。

特定非営利活動法人北海道遺産協議会 (団体ページへ)

特定非営利活動法人北海道遺産協議会
■ 住所 札幌市中央区大通東2丁目3番地1
■ 電話 011-218-2858
■ FAX 011-232-4918
■ メール info@hokkaidoisan.org
■ 時間 9:00~18:00
■ ホームページ https://www.hokkaidoisan.org
■ Facebook https://www.facebook.com/hokkaidoisan
■ Twitter ID @hokkaidoisan
■ instagram ID @heri_joshi

今後の開催予定

2018年春、約13年ぶりに北海道遺産の第3回選定を行い、同8月に公表予定。その他、北海道ヘリテージウィークや北海道遺産フォトコンテスト、バスツアーなどのイベントを開催。北海道遺産構想を支えるサポーターも募集中。詳細は団体ホームページ、Twitterへ。問い合わせ、申し込みは電話またはメールで受け付け。

取材を終えて

北海道は日本最大の面積を持つ都道府県です。豊かな自然を始め、地域に伝わり続けてきた建築や文化などは数えきれませんが、実際に全て目にしたことがある人は北海道民でも少ないのではないでしょうか。北海道遺産にはそこに住まう方々の地域への愛や、未来へ伝えていきたいという想いが溢れています。北海道遺産協議会が遺産を通じて人と人をつなぎ、地域のいきいきとした活動を広く発信することは、北海道の魅力の再発見につながると感じました。

(取材・文・編集 株式会社Mammy Pro)
※2018年3月6日現在の情報です。