特定非営利活動法人モエレ沼芸術花火

市民による市民のための祭りづくり

今や札幌の秋の風物詩として内外に知られる「モエレ沼芸術花火」を仕掛けた中心人物。有言実行で切り開いてきた、市民による市民のお祭りづくりへの思いを伺いました。

子どもたちに見せたい芸術を
みんなで支え続けたい

特定非営利活動法人モエレ沼芸術花火
理事長

糸川一也(いとかわかずや)さん

一級建築士として建設、電気工事会社の代表を務めながら、市民が中心になった花火大会の開催を目指して奔走。2012年、音楽と花火を組み合わせた次代の花火大会「モエレ沼芸術花火」の初開催へとこぎ着ける。以降6回、毎秋のモエレ沼公園の空を彩る芸術花火が上げられ、話題を集める。チケット購入による入場者数は2万人強を動員するまでに。2016年にNPO法人化。

設営から運営、そしてゴミ拾いまで。ボランティアが活躍する3日間。

現在、実行委員会には50人ほどのメンバーがいて、うち専属スタッフは2人、あとはみんな仕事を持ちながらのボランティアです。みんなには、ちょっとだけ背伸びをして無理をしないで活動に参加してもらいたいと言っています。花火の開催では、大学生約300人を含む500人くらいのボランティアが、前日の設営から当日の運営までを担っています。プロに頼めば半分くらいの人数で賄えるでしょうが、そうすると市民のお祭りじゃなくなって普通の興行になってしまう。だから、学生も社会人もみんながやれることをちょっと背伸びしてやってみようというのがこのお祭りの考え方なんです。また、花火は1つ上げただけでものすごくゴミがでるんです。なので、翌日は「世界一たのしいゴミ拾い」と題した清掃イベントを行っています。これには1,000人以上のボランティアの参加があるんです。企業や団体は、CSR活動の一環としての協力も多くて、そうした取り組みにも寄与できるような興行性の薄い事業にと考えています。

芸術として捉えられるものを。子どもたちに本物を体験できる機会を。

スタートは、ある会合の席で札幌の花火大会の話が出たことからです。花火大会が年々減っているけれど、旭川をはじめ、道内の他都市では市民が中心になって開催している花火大会もあると。それなのに札幌は企業任せでそれは寂しいんじゃないか、じゃあやろう、やってみようとなったんです。そこから、どんどん人が集まっていったんですが、ただにぎやかな、お祭り騒ぎのような一過性のイベントをやってはいけないと思ったんです。夜空を輝かせる美しい花火を芸術として捉えてもらえるものを、自分の子どもたちはもちろん、札幌の子どもたちに本物の素晴らしさに触れてもらえる機会をつくりたいとみんなで話し合いました。イベントが少なかった昔と比べて、今は多種多様な楽しみがあります。だからこそ、芸術の力が必要で、そこから会場や核となるストーリーを考えていったんです。この街で5年、10年と長く続くことができ、子どもたちの記憶にずっと残るようなお祭りにしたいという思いにこだわって開催を目指しました。

音楽と花火が繰り広げる芸術花火は全国へと広がり、街と人を元気に。

花火の玉の大きさと芸術性は比例するもので、やはり直径約30センチの10号玉、俗にいう尺玉でなければ見せられないものがあるんです。尺玉は昨今、あまり打ち上げられなくなっているのですが、モエレ沼では本物の花火の感動にこだわり、毎年50発ほど用意。音楽とシンクロした芸術花火の世界でたっぷりとご覧いただいています。また、全国花火競技大会での受賞者をはじめとするゲスト花火師も毎年招いています。花火師の間では「まだモエレ沼から呼ばれてないの?」と話題になっているそうで、モエレ沼芸術花火がプロに認知されてきているのはうれしい限りです。芸術花火は今、“兄弟花火”として宮崎、福岡、京都、名古屋にも広がっているんです。札幌よりも元気のある街、スポンサーもたくさん付きそうな街もありますが、自分たちの街は自分たちで元気にしていこうとの思いは全国どこでも一緒です。みんなでつくる楽しい花火大会に人が集まり、新しい文化を創り上げていけるように、これからも公共性のある事業、組織づくりをしていきたいです。

(取材・文・編集 株式会社アウラ)
※2019年3月1日現在の情報です。