特定非営利活動法人さっぽろ時計台の会

日本最古の時計塔として、札幌のまちを見つめる時計台を愛し、ささえたい

1878(明治11)年に旧札幌農学校演舞場として創建された札幌市時計台は、札幌のまちを見守り続けて2019年で141年を迎えました。札幌のシンボルであり、歴史的な重要文化財でもある時計台を愛しささえる想いを、特定非営利活動法人さっぽろ時計台の会会長、谷征輝さんに伺いました。

特定非営利活動法人さっぽろ時計台の会 会長 谷征輝さん

特定非営利活動法人さっぽろ時計台の会
会長 谷征輝(たにせいき)さん

1973年に勤めていた仕事を辞め、札幌で独立。夕暮れ時に聞こえてきた時計台の鐘の音に感銘を受け、小学校のPTAや町内会で市民憲章に触れたことで奉仕活動を行うようになりました。1992年に時計台を守る市民の会(現・特定非営利活動法人さっぽろ時計台の会)に参加。1993年に同会の監事、2014年には会長に就任しました。

明治から変わらず札幌のまちを見守り続ける時計台への想い

―設立のきっかけを教えてください

札幌市時計台は、1878年10月16日に旧札幌農学校演舞場として創建されました。この演舞場は、旧札幌農学校の初代教頭であるクラーク博士の提言により建設されましたが、兵式訓練や入学式、卒業式などを行うための中央講堂として使用され、当初、時計塔はありませんでした。しかし、創建から3年後の1881年に時計塔が完成して以降、1888年に札幌の標準時計に指定され、今もなお鐘の音を響かせています。1903年に旧札幌農学校が移転した際、当時の札幌区が演舞場を借り受け、「時計台」と呼ばれるようになりました。その後、1906年に100mほど南に曳家(※1)した以外これまで場所を移すことなく、時計台は札幌のまちや歴史を見守り続けています。また、1966年に札幌市立図書館(現・札幌市中央図書館)を新設するまでの間、図書館や公会堂として市民教育を促し、文化活動の中心施設の役割も果たしたとして、1970年には国の重要文化財に指定されました。その時計台の愛護を目的として、1975年に初代会長の高倉新一郎が設立した時計台をまもる市民の会が、現在の特定非営利活動法人さっぽろ時計台の会(以下、時計台の会)です。2004年に名称をさっぽろ時計台の会と変更し、翌2005年には特定非営利活動法人格を取得して現在の形になりました。(※1)建築物をそのままの状態で移動する建築工法

現存する日本最古の時計台の鐘が鳴るまち札幌

―札幌のシンボルである時計台をささえる活動について教えてください

設立当初は、足場を組んだ大規模清掃や時計塔の保守協力、植樹などの愛護活動に始まり、時計台移転案が出た際は時計台を現位置に保存するための活動をしていました。現在の活動内容は、大きく分けて3つあります。1つは、時計台2階ホールにて実施する1878年10月16日の創建日を記念した「時計台まつり記念行事」です。毎年6月~10月に計5回の記念演奏会と札幌市内在住の小学生を対象とした児童絵画展を開催しており、今年で38回目を迎えました。創建記念日に合わせて記念式典や児童絵画展の表彰式を行い、演奏会ではピアノやハーモニカ、日本伝統楽器演奏など毎年さまざまなジャンルのアーティストが出演します。2つ目は、茶道裏千家淡交会札幌青年部第四支部(以下、裏千家淡交会)による呈茶(※2)です。抹茶と時計台をかたどった落雁を振る舞うサービスは、時計台を訪れた市民や海外観光客にも喜ばれています。そして3つ目は、一般社団法人札幌市友会との共催事業として「札幌市時計台なぞなぞ!ふしぎ!探検」という児童用小冊子を作成し、市内の小学3年生に届ける活動です。このように、時計台の会は時計台について広く市民に知ってもらい、親しんでもらえるような活動を行っています。2019年は文化財の保存や伝承に携わる個人と団体に贈られる一般財団法人北海道文化財保護協会の北海道文化財保護功労者表彰を受賞しました。(※2)茶を立てて客人に振る舞うこと

現存する日本最古の時計台の鐘が鳴るまち札幌 (写真左)創建140周年記念式典の演奏会では、札幌市医師会合唱団が「虹と雪のバラード」など札幌にちなんだ曲を披露しました
(写真右)児童絵画展の優秀作品は時計台ホールや大通地下街で展示しています

―時計台をささえる意義を教えてください

「わたしたちは、時計台の鐘がなる札幌の市民です」から始まる札幌市民憲章は、札幌の人口増加や都市化によって人と人との結びつきが薄れ、連帯意識や公徳心低下の懸念から市民の手で1963年に制定され、かつては小学校や町内会でも唱和されていました。時計台は「北海道」と命名された10年後に創建され、札幌のシンボルとして140年以上もの歴史をもつ重要文化財です。明治維新後、太陰暦から太陽暦に変更されたことを受け、明治の終わりまでに時計塔は全国で72塔が建設されましたが、戦災や震災の影響からその数は減り、時計台は現存する日本最古の時計塔です。その時計台を愛し、これからも守り、ささえていくことは、札幌市民にとって非常に重要だと感じています。そのため、市民への啓蒙活動を行い、子どもたちにも児童絵画展や文化財に触れることを通じて愛護の心を育みたいと考えています。

札幌のまちが発展してきた足跡に想いを馳せる

―活動にはどんな方が参加されていますか?

18人の役員で運営し、会員数は2019年3月末の時点で法人会員35社、個人会員は42人です。60~70代が中心となっているため、もっと若い人にも時計台について理解を深めてもらい、ライトアップやプロジェクションマッピングなどの若い感性で時計台を盛り上げる企画を発案してもらえたらうれしいですね。また、記念演奏会には平均120人が来場し、ご夫婦で参加してくれる方もいます。呈茶は一般には事前告知をしていないのですが、毎回すぐに100人の定員に達するほど観光客や市民に人気があります。2018年の140周年記念事業の際には140にちなみ、140人に呈茶を行いました。同事業にて行った文化財施設や歴史的遺産を巡る「さっぽろ文化財ツアー」には定員84人のところ147人もの応募があり、非常に好評でした。

―運営メンバーの声を聞かせてください

「記念演奏会の際には『素晴らしい演奏を無料で聴けるのが良い』という参加者の声を聞くことができ、受付をしていても皆さんが喜んでいる様子が分かって嬉しいです。また、創建140周年記念事業の『さっぽろ文化財ツアー』ではしおりや各施設で説明員による解説もあったため、『豊平館でクラーク博士と関係が深いとされるカレーライスの由縁を知り、興味深かった』『文化財や札幌発展の歴史を巡れたことが良かった。またやってほしい』と非常に好評で良かったと感じました」という声をいただきました。

札幌のまちが発展してきた足跡に想いをはせる (写真左)裏千家淡交会による呈茶。時計台をかたどった落雁と着物姿のおもてなしは海外観光客からも好評です
(写真右)さっぽろ文化財ツアーでは、文化財への関心を深める説明員の解説もあります
団体への参加方法

参加対象/どなたでも参加可能

申し込み方法/電話・FAX・メール。詳細はホームページを参照

活動頻度/時計台まつり記念式典、演奏会(年5回)、裏千家淡交会による呈茶

参加費用/年会費2,000円

これからも時計台への市民の理解や愛護の心を育み、盛り上げていきたい

―今後の目標を教えてください

これからも市民の時計台への理解を深め、愛護の心を育む活動を続けていきたいです。そのためにも、まずは企業会員50社以上、個人会員100人以上を目指し、財政面を安定させるほか、組織の改造も行っていきたいと考えています。また、現在は時計台外での催しは行っていません。1982年から2001年までの時計台まつり記念行事では、のみの市の開催や札幌駅前をぐるりと回る盛大な記念パレードを行っていました。特にパレードは時計台記念まつりのメインイベントです。警察や消防隊、自衛隊などの音楽隊や大通小学校の鼓笛隊の演奏だけでなく、札幌市内の大学生がクラーク博士や新渡戸稲造、屯田兵などの仮装をしたり、服飾の専門学校生が明治から大正にかけての服装を再現して仮装することで、その変遷を見ることができるなど大変賑わいを見せていました。パレードを行わなくなってから20年近く経過しているため、各方面への調整や手続きには苦労するかと思いますが、今後また実現させたいと考えています。その他にも、時計台という文化財に触れることで愛護の精神を感じてもらうためにも、ぜひ多くの子どもたちが児童絵画展に参加してくれるよう働きかけていきたいです。

特定非営利活動法人さっぽろ時計台の会(団体ページへ)

特定非営利活動法人さっぽろ時計台の会
■ 代表者 谷征輝
■ 住所 札幌市中央区北1条西2丁目時計台内
■ 電話 011-251-5944
■ FAX 011-251-5944
■ メール npo-clock@apricot.ocn.ne.jp
■ ホームページ http://sapporotokeidai.sakura.ne.jp/index.html
今後の開催予定

毎年6月~10月に時計台まつり記念演奏会、創建記念日の10月16日頃には記念式典のほか、裏千家淡交会による呈茶を予定。また、8月~9月に札幌市内在住の小学生を対象にした児童絵画展の作品を募集、10月には優秀作品を展示し、記念式典内で表彰を予定している。

取材を終えて

時計台は1878年の創建以降、何度も修復を重ねながら140年以上経つ今も札幌のまちを見つめています。北極星をイメージした開拓使時代の「五稜星」をルーツとする赤い星が施された時計台は、札幌のシンボルとして長く愛され続けてきました。時計台を守り続けることは、札幌の歴史そのものをささえることにつながると感じました。

(取材・文・編集 株式会社Mammy Pro)
※2019年10月31日現在の情報です。