「自然」と「地域」をつなぐ

未来につなげたい北のたからもの
自然との関わり方の多様性を広めていきたい

特定非営利活動法人カラカネイトトンボを守る会 あいあい自然ネットワーク 理事長 綿路昌史(わたじまさし)さん

札幌市北区あいの里地区を中心に札幌唯一の湿原である篠路福移湿原の保全、保護や周辺の自然を守る活動を行っている団体があります。経済的価値だけではない、地域の文化的価値としての自然を守り、未来の子どもたちに残したい―。その想いを伺いました。

特定非営利活動法人カラカネイトトンボを守る会
あいあい自然ネットワーク
理事長 綿路昌史(わたじまさし)さん

北海道札幌旭丘高等学校教諭 生物部顧問。
札幌拓北高校(2013年統合、2015年閉校)にて理科研究部を立ち上げ、1990年頃からあいの里の自然、動植物の観察を始める。現在は、札幌旭丘高校で生物を教えながら精力的に活動を行っている。

地域の自然を未来の子どもたちへ残したい

―特定非営利活動法人カラカネイトトンボを守る会あいあい自然ネットワークを設立したきっかけを教えてください。

 以前、札幌市北区あいの里にあった札幌拓北高校では、地域の住民を対象に市民講座を行っており、私も理科研究部の生徒たちの研究発表を市民講座で行っていました。当時、あいの里は新興住宅地で、若い夫婦がたくさん移り住んできており、子どもにあいの里の豊かな自然を残したいという熱意のある保護者2人と私で1997年6月に「カラカネイトトンボを守る会」を立ち上げたことをきっかけに、あいの里の自然に関しての報告をまとめ、地域のイベントで発表する活動をはじめました。
 「カラカネイトトンボ」は絶滅危惧種です。学術名は「nehalennia speciosa(ネヘレニア スペシオサ:ゲルマン民族言葉で、優美な女神の意)」。そこで、自然を守る女神が先頭に立って導いてくれるように願いを込め、会の名称に「カラカネイトトンボ」とつけました。また、あいあい自然ネットワークの「あいあい」は「あいの里」と「活動に関わる皆さんの愛」を想ってつけています。
 現在は、カラカネイトトンボだけではなく、湿原に生息する生物や周辺環境を守っていく活動も行っています。現在会員は210人ほどで、拓北・あいの里の地域住民の皆さんや札幌旭丘高校の生物部、OBである大学生(北大、酪農学園大などに在学)や社会人、滝川高校生物部、屯田北中学校の生徒たちも関わってくれています。篠路福移湿原の保全を目的にナショナルトラスト運動(※)を展開するにあたり、土地の取得を行う際に法人格が必要になったため2011年9月に法人化しました。
(※)価値のある自然環境や歴史環境を保護するために、住民が土地を買い取ることにより保存していく制度・運動のこと

(写真左)札幌市内で唯一の湿原、篠路福移湿原に生息するカラカネイトトンボ。(写真右)2017年1月に開催したカラカネトーキング(活動報告会)の様子。 (写真左)札幌市内で唯一の湿原、篠路福移湿原に生息するカラカネイトトンボ。(写真右)2017年1月に開催したカラカネトーキング(活動報告会)の様子。

自然に親しみながら参加者全員で活動を楽しむ

―現在の活動内容を教えてください。

 主な活動は三つです。
 一つ目は、自然保全活動です。篠路福移湿原のナショナルトラスト運動をはじめ、とんぼの生息調査を通じた環境変動の解析・報告を行っています。また、毎年1月には、拓北・あいの里地区の福祉施設をお借りして「カラカネトーキング」という報告会を行っています。
 二つ目は、自然に親しむ活動です。拓北・あいの里地区にある水田(湿原)での田植え・稲刈り体験、昆虫採集教室、ほたるの光観察会などを通じて、地域の皆さんに気軽に自然に親しんでもらい、身近なところに素晴らしい自然があることを知ってもらいたいと思っています。
 三つ目は、未来につなぐ活動です。茨戸川河岸でのビオトープ(ミニチュアの生態系)づくりを通じた動植物再生の取り組みを行っています。このビオトープを「とんぼの学校」と呼んで、その周辺の湿原性植物の採種・育種・繁殖活動を行っています。
 年間を通して、毎月さまざまなイベントを行っていますが、毎回会員自らが楽しみ、参加してくれる子どもたちや、その家族にも楽しんでもらえるよう、和気あいあいと活動を続けていきたいと思っています。

(写真左)2015年5月29日に早乙女衣装を着て田植えをしている様子。(写真右)2017年8月13日に開催した「どこどこ?」昆虫採集教室の様子。子どもも大人も夢中に。 (写真左)2015年5月29日に早乙女衣装を着て田植えをしている様子。(写真右)2017年8月13日に開催した「どこどこ?」昆虫採集教室の様子。子どもも大人も夢中に。

よりいっそう地元への理解を深め、活動を充実させていきたい

―今後の目標は何ですか?

 活動を開始してから20年経ちましたが、年々、篠路福移湿原は小さくなってしまっているのが現状です。湿原があるということさえ知らない方もまだまだ多くいらっしゃると思います。まずは、自然はかけがえのないものであるということを、皆さんへ理解して頂き、興味関心を持っていただけるように活動を充実させていきたいです。特に未来を担う地域の子どもたちに、自然に親しむ学びの場をもっと提供していきたいと考えています。自然のままに放置しておくというのではなく、里山のように、湿原に適度に人が入っていくことで守られる、自然とのかかわり方の多様性を広め、経済価値だけではない、地域の文化的価値としての自然を守っていくことが今後の目標です。

特定非営利活動法人カラカネイトトンボを守る会あいあい自然ネットワーク (団体ページへ)

特定非営利活動法人カラカネイトトンボを守る会あいあい自然ネットワーク
■ 住所 札幌市北区あいの里3条7丁目15-10
■ メール watashi_wataji@yahoo.co.jp
■ ホームページ http://www7b.biglobe.ne.jp/~karakane/
■ 公式ブログ http://blog.goo.ne.jp/karakane_itotonbo
■ Facebook https://www.facebook.com/karakaneitotonbo/

今後の開催予定

5月:あいの里自然観察ウォークや田植え、6月:ビオトープの整備とカヌー体験、7月:篠路福移湿原観察会、8月:トンボ採集教室やビオトープの整備とカヌー体験、9月:トンネウス沼の整備や稲刈り、1月:カラカネトーキング(活動報告会)など。問い合わせ、参加や登録の申し込みはホームページのメールフォームから、または電話で受け付け。

取材を終えて

「子どもたちと湿原を歩いていると、色々な発見をしてくれて驚かされます」と笑顔で語ってくれた綿路さん。子どもたちの小さな発見にも、しっかりと耳を傾ける情熱こそが、「今ある自然を次の世代に残したい」と強く想う気持ちにつながっているんだな、と感じました。

(取材・文・編集 株式会社Mammy Pro)
※2018年2月15日現在の情報です。