移動手段としてだけでなく、地域と共に札幌をささえるシェアサイクルでありたい
「シェアサイクルが札幌の新たな移動の選択肢になるかもしれない」2008年から始まったサイクルシェアリング事業の社会実験が2011年に本格稼働し、間も無く10年目を迎えます。移動手段としてだけでなく、シェアサイクルを通じて地域と共に札幌のまちの活性化をささえる想いを認定特定非営利活動法人ポロクル事務局長、熊谷美香子さんに伺いました。
認定特定非営利活動法人ポロクル
事務局長 熊谷美香子(くまがいみかこ)さん
株式会社ドーコン交通部都心交通企画室で勤務。2011年に設立された株式会社ドーコンモビリティデザインでシェアサイクル事業に関わり、2014年に特定非営利活動法人ポロクルの設立と共に事務局長に就任。
まちを五感で楽しみながら自由に移動できる自転車ならではの魅力
―設立したきっかけを教えてください
総合建設コンサルタントとして道路や橋などの設計、その他のインフラ整備に関わる株式会社ドーコンが、地域の方々と接する中で新規事業の検討を始めたことがきっかけでした。ドーコンが持つ知識や技術、ネットワークを活かすことで「もしかしたらシェアサイクルがみんなの移動をささえる手段の1つになるかもしれない」と考え、2008年に社内有志でチーム「自転車創業」を立ち上げました。2009年に環境省の公募で採択されたことを受け、コミュニティサイクル社会実験を実施し、札幌の企業とサイクルポート・オペレーションシステムの開発を行いました。2010年には株式会社NTTドコモと共同で決済システムを加えた社会実験を行い、シェアサイクルの可能性について検討を重ねました。その後、2011年に株式会社ドーコンモビリティデザインを設立し、シェアサイクル事業「ポロクル」のほか、札幌中心部の放置自転車対策やCO2排出削減など社会が抱える課題解決のための活動を始めました。「もっとポロクルがまちに役立つ存在になり、誰もが参加できる取組にしたい」という想いから、北海道大学の萩原亨教授を理事長に迎え、一般社団法人札幌観光協会や一般財団法人北海道交通安全協会などの方々にも理事として参加していただき、2014年に特定非営利活動法人ポロクルを設立しました。2016年には札幌市から認定特定非営利活動法人の認定を受け、今に至ります。ちなみに、ポロクルは全国的にもシェアサイクルの先駆けでした。日本国内で150以上の都市で行われているシェアサイクルのほとんどは自治体が主導であり、民間主導型はかなり珍しいです。
―シェアサイクルの魅力は何ですか?
シェアサイクルとは、自転車を共同利用するサービスです。ポロクルは街中の約40か所のポート(専用駐輪場)に350台の自転車が配置され、ポートからポートへどこでも自由に貸出や返却を行うことができます。料金は利用した時間で計算されるため、短時間の利用も可能です。シェアサイクルには、自転車という移動手段ならではの魅力があります。まちを五感で楽しめるほか、線で移動する公共交通に比べ、自由に面での移動ができるため、「公共交通が走っていないが徒歩では遠くて行きにくい」という場所へも移動できます。また、活動が始まった2008年は札幌に「何かをシェアする」という概念はまだありませんでした。ちょうどその頃は中心部で自転車の利用が急増していましたが、専用のポートを設置することで点字ブロックを塞いでいた放置自転車が減り、まちの魅力向上に貢献できることもシェアサイクルの効果だと感じています。
(写真右)ポロクルクルーによる自転車の再配置(多いポートから少ないポートへ移動する)作業
「自転車」をキーワードとして展開するシェアサイクルの可能性
―活動について教えてください
シェアサイクル事業が主な活動です。札幌市民だけでなく、近年は市内ホテルや観光案内所などとの連携によって観光客の利用が増え、特に2016年以降は英語をはじめ中国語や韓国語に対応したことで海外観光客の利用が多くなっています。また、2019年はポロクルにとって大きな変化の年となりました。設備やシステムの老朽化などの課題を解決するため、株式会社NTTドコモと再び提携しました。2年間の共同運営の試行として、スマートフォンのアプリへの対応や他地域と相互連携するなど新たなシステムの導入と共に電動アシスト付き自転車に入れ替え、サービス向上とコストダウンを目指しています。これまで利用の大半が市内中心部でしたが、電動アシスト付き自転車を導入したことによって銭函・小樽方面や定山渓温泉、モエレ沼公園、大倉山など利用範囲にも変化が生じ、札幌観光のツールとして活用されていると感じています。さらに、さまざまな団体と連携しながらイベントや活動を実施しており、市民参加型のイベント「TOWN PICNIC SAPPORO」では、南1条通の歩行者天国にて子どもを対象としたプログラムを実施するなど良好な自転車利用環境創造に向けた活動を行っています。その他、利用者や市民に自転車のルールやマナーを知っていただくための啓発活動にも力を入れており、安全利用の声かけや冊子の配布、各種イベントにも参加しています。さらに、札幌市や国土交通省と災害協定を結んでおり、2018年に起きた北海道胆振東部地震の際には、北海道開発局札幌開発建設部に自転車5台を無償で貸し出しました。
地域と連携し、シェアサイクルを通じて若者がささえるまちづくり
―活動にはどんな方が参加されていますか?
特定非営利活動法人ezorock(エゾロック)と協働し、学生やアルバイトを中心とした若者たちが運営しています。自転車の再配置や点検だけでなく、ハンドサインや歩道での押し歩きを実践したりルールやマナーの啓発活動や、イベントの企画・運営なども彼らが行います。若者の呼びかけに応じる方は多く、過去にはポートを中心とした地域住民とポロクルクルーとのコミュニティができていたこともありました。私たちは地域の方々と「札幌を良くしたい」という想いを共有し、一緒に盛り上げていきたいと考えています。
―運営メンバーの声を聞かせてください
「私は特定非営利活動法人ezorockの他の活動に関わりながらポロクルのクルー(アルバイト)として、1年間関わりました。自転車に乗ることはあまり得意ではありませんが、アルバイトをしながら札幌の魅力を知ることができるということで参加しました。日常生活で行ったことがない札幌の街中に行ったり、一緒に勤務するクルーとおすすめのお店を教え合ったりすることで、さまざまな施設やお店を知ることができました。休みの日にはポロクルを使って、ポート周辺のお店にクルー同士でランチを食べに行ったりした人もいたようです。アルバイトではありますが、札幌の街中の自転車の利用環境の工場に関わることができることは魅力だと思います。札幌市、札幌大通まちづくり会社、二番街商店街、ポート設置先の企業などの多様な関係者と連携しながら、自転車の利用環境の向上という1つの目的に向けた多様なアプローチに関わることができました」という声をいただきました。
(写真右)「さっぽろ自転車押し歩きキャンペーン」の啓発活動の様子
団体への参加方法
2020年度のポロクルクルーは以下のリンクより
https://www.ezorock.org/project_c/19544
クルーではなく、活動に参加したい方は、以下より問い合わせ
札幌でポロクルを続けていくための課題を共に解決していきたい
―今後の目標を教えてください
シェアサイクル事業を通し、まちの課題解決に向けた取組を続けるためには、賛助会費や寄付に頼らざるを得ない不安定な収支構造の改善が急務となっています。株式会社NTTドコモとの共同運営の試行1年目である2019年は、昨年比1.8倍の利用増で推移しています。新たに導入した電動アシスト付き自転車やシステムにより、ユーザーが求める多様なライフスタイルに対応したサービスを提供できていると感じていますが、2年目はさらなるコストダウンを図らなければなりません。今後は、行政の政策的な位置づけも必要ではないかと考えています。ユーザー視点で札幌市内の公共交通とも連携し、統合されたサービスを提供できないかということも検討してみたいですね。また、私たちだけではなく、ポロクルが持続可能な社会の実現に貢献できるよう、一緒に考え行動してくれるプレイヤーを探しています。課題解決のために必要となる「ひと・もの・こと」や札幌にマッチする形を共に考えながら、新しいポロクルをつくっていけると嬉しいです。
認定特定非営利活動法人ポロクル(団体ページへ)
■ 代表者 | 萩原亨 |
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■ 住所 | 札幌市厚別区厚別中央1条5丁目4番1号 |
■ 電話 | 011-896-5601 |
■ FAX | 011-896-5602 |
■ 活動時間 | 9:00~17:00 ※土日祝を除く |
■ メール | contact@porocle.jp |
■ ホームページ | https://porocle.jp/npo_porocle/ |
https://ja-jp.facebook.com/porocle | |
■ Twitter ID | https://twitter.com/porocle |
https://www.instagram.com/porocle_sapporo/ |
取材を終えて
ポロクルは当初、自転車・システム・ポートの全てが札幌でつくられた「札幌生まれのシェアサイクル」としてスタートしました。「札幌を良くしたい」という想いを共有し、地域の方々にささえられながら札幌のまちをささえています。札幌を訪れる観光客には「暮らすように旅ができる」観光のツールとして、市民にはまちの魅力を再発見する機会や自由な移動手段として、ポロクルは札幌にはなくてはならない存在だと感じました。
(取材・文・編集 株式会社Mammy Pro)
※2019年10月23日現在の情報です。